柴⽥まお Blue Lotus
TBSによるアートイベント「AKASAKA ART WAVE」が3月29日まで、東京・赤坂のTBS放送センター裏(南公園)周辺で開催されている。会場となるのは、2028年竣工予定の赤坂二・六丁目地区開発計画が進むエリアの一角。入場は無料で、屋外に点在する作品を鑑賞できる。
本イベントは、TBSが推進する赤坂エンタテインメント・シティ構想のなかで、街にアートが継続的に根づいていくための第一歩として位置づけられている。背景にあるのは、変わりゆく都市のなかで何を残し、何を未来へ手渡していくのかという問いだ。キュレーションを担当する田尾圭一郎は、「AKASAKA ART WAVE」について次のようにコメントしている。
本展の根幹をなすコンセプトは「感性の波打ち際」だ。過去・現代・未来という⻑大な時間 軸に沿いながら、リアルとデジタル、太古と未来、不可視と可視、海と陸といった、鑑賞者 の感情や既成概念の“波打ち際”を揺らすことを目的としている。

また、「AKASAKA ART WAVE」という名称に含まれる「WAVE(波)」にも、この企画の核となる意味が込められている。本プロジェクトの着想の出発点のひとつとなった中沢新一の著書『アースダイバー』では、赤坂周辺がかつて海に面した入り江であり、TBS本社のある場所が岬だった可能性が指摘されている。これについて田尾は次のように説明する。
数千年前、この街は現在とはまったくちがう姿の“波打ち際”だったかもしれない── 「AKASAKA ART WAVE」は、アーティストの作品によって古代の海岸線を再照射し、アスファルトの下に眠る街の野生的な想像力を呼び覚ます試みなのだ。
参加作家は、井上修志、井上ひかり、柴田まお、松田将英の4組。会場では作品とあわせて作家へのインタビュー動画も上映される。
ここからは、各作家の作品を紹介する。
井上修志
井上修志は1995年、宮城県生まれ。東京藝術大学大学院修士課程を修了し、自身が経験した東日本大震災を通して、崩壊と創造によって絶えず姿を変える風景や地表の出来事に目を向けてきた。コンクリートや土などを用い、人間の開発行為と自然の力がせめぎ合う場面を想起させる作品で知られる。本展の出品作では、海岸線を人為的に形づくるテトラポッドのイメージが、太古の赤坂、震災の記憶、そして再開発によって更新される都市の境界線を重ね合わせるものとして響く。
井上ひかり
井上ひかりは1999年、神奈川県生まれ。2024年に武蔵野美術大学大学院油絵コースを修了した。これまで工業製品特有のツヤやフォルムへの関心から作品を展開し、近年はホースを主なメディウムとして支持体と一体化させて画面を作り上げてきた。既製品の鮮やかな色彩や硬さ、思い通りに形を変えない抵抗感を引き受けながら、素材の「ここに存在している」という感覚を強く押し出す表現が特徴だ。今回の展示でも、現代のインフラを支える工業素材が、かつてこの土地に広がっていたかもしれない海景を想起させ、都市の表層の下に流れる時間の層を可視化する。
柴田まお
柴田まおは1998年、神奈川県生まれ。現代において多様化する人と人とのつながりや、そのなかで立ち上がるコミュニケーションのあり方を主題に、彫刻やインスタレーションを発表してきた。物理的な彫刻表現と映像技術を掛け合わせる実践に特徴があり、現実にそこにあるものと画面の中で認識されるものとのずれを浮かび上がらせる。今回のモチーフである蓮は、太古の巨大な植生を思わせると同時に、東洋思想における清浄や再生の象徴でもある。現実と虚像の境界が日々揺らぐ現代において、見えることと見えないことの感覚を問い返す作品は、本展のテーマと強く接続している。
松田将英
松田将英は1986年生まれ。科学技術を単なる道具ではなく詩的な媒体としてとらえ、AI以後の時代における人間性や知覚のあり方を問い直してきた。デジタル空間に埋め込まれたルールやインターフェースを、現実の空間や身体感覚へと接続し直す実践で知られる。本展でも、SNSにおけるタグ付けと都市空間への介入を重ね合わせながら、再開発によって書き換えられていく街の名前や記憶、痕跡の残り方を考えさせる。
イベントは同時期開催の「TOKYO CREATIVE SALON」とも連携し、再開発の只中にある赤坂を、ビジネス、エンタテインメント、信仰、土地の記憶、そして現代アートが交差する場としてとらえ直す。今回の試みが、この街にどのような文化の波を生み出すのか注目したい。