左からYotta《花子》とヤノベケンジ《宇宙猫涅槃像》
京都の歴史的空間を舞台に開催される「ARTISTS' FAIR KYOTO 2026」は、「アーティスト主導のアートフェア」として誕生し、今年で第9回を迎える。京都国立博物館 明治古都館や東福寺といった歴史のある建造物のなかで現代アートが展示される。来場者は作品を鑑賞するだけでなく、作家本人と言葉を交わしながら作品の理解を深め、その場で購入することもできる。
出品作家の推薦や選出にアーティスト自身が関わり、作家同士の信頼関係や視点によって構成されている点も、このフェアの大きな魅力のひとつだ。さらに、アドバイザリーボードを務める著名アーティストの作品も展示され、若手から第一線で活躍する作家までの表現が一堂に会する場となっている。

京都国立博物館 明治古都館には、約40組のアーティストが集結。1895年竣工の重要文化財建築の装飾性や構造を活かしながら、館内を巡って鑑賞できる構成となっている。会場には足場材で制作された椅子が設置され、来場者は腰掛けて作品を鑑賞し、作家との対話やポートフォリオの閲覧を通して作品世界に触れていく。
また、ストックヤードを展示空間として公開する試みや、映像作品のための暗がりの空間、中央ホールでの展示など、この場の特性を活かした展示方法が取り入れられている。

なかでも注目したいのが、「ARTISTS' FAIR KYOTO 2026 マイナビ ART AWARD」で最優秀賞を受賞した中西凛の作品だ。可食素材による彫刻シリーズ「eat sculpture」は、羊や鳩の姿をした造形が崩れることで内部のチョコレートが現れ、その変化の様子が映像とともに展示される。

「主にチョコレートとホワイトチョコレート、少し水あめを使い、食用色素を混ぜて質感を調整しています。見るという鑑賞の先に、香りや味わい、触感へと感覚が広がっていくイメージでこのシリーズを制作しました」
作品は、視覚だけにとどまらない鑑賞のあり方を想起させる。可食素材を用いる背景には、作家自身の生活環境があるという。
「実家が洋菓子屋で、子供の頃から菓子の材料が身近にありました。彫刻素材よりも自然に感じられる素材なんです」
崩れていく造形は、消費や循環、生命のつながりを思わせる。作品の変化を見つめるなかで、鑑賞者は身体と食、時間との関係について思いを巡らせることになるだろう。

臨済宗大本山 東福寺では、2月21日から3月1日まで、ディレクターやアドバイザリーボード、そしてAFKにゆかりのあるアーティストによる展覧会「AFK Resonance Exhibition」が開催されている。AFKはこれまで若手アーティストの育成支援を続けており、その経験をもとに、本展の趣旨に共鳴する作家が選ばれている。ディレクターの椿昇をはじめ、大巻伸嗣、加藤泉ら第一線で活躍する作家の代表作や新作が紹介されている。
会場となる東福寺は、京都五山のひとつで、重森三玲による方丈庭園「八相の庭」をはじめ、建築・庭園・美術が一体となった寺院だ。本展ではその歴史ある環境そのものが展示の舞台となり、庭園、回廊、本堂周辺、竹林など寺域全体に作品が点在する。
東福寺の入り口には、ヤノベケンジによるSHIP'S CATシリーズの《宇宙猫涅槃像》が東福寺に初登場した。宇宙を旅してきた猫が静かに横たわる姿は、迷いや執着から解き放たれた穏やかな安らぎを表現する。作品の内部に入ることもでき、鑑賞者が静けさのなかに身を置くための「場」としても体験できる。

また、アートユニットYottaによる巨大彫刻《花子》が今年も登場した。圧倒的な存在感を放ち、来場者の目を引くこの作品は、AFKになくてはならない存在だ。屋内では設計データ(NFT)を内包した彫刻作品が展示されており、実体としての彫刻と情報としての彫刻という、ふたつのあり方を体感できる。

方丈には、アドバイザリーボードを務める作家たちの作品が並ぶ。ヤノベケンジ、名和晃平、椿昇らの作品が禅寺建築の落ち着いた空気のなかに置かれ、庭園の配置や差し込む光、時間の移ろいとともに、作品の見え方に奥行きを与えている。



竹林の一角に設置された黒川岳の作品は、長年手入れされていなかった場所を整備することから始まった。枯れた蔓を積み上げて壁状の構造を作ることで外部の音を和らげ、風に揺れる蔓の音、鳥の声、足元の葉の音など、周囲の環境に含まれる微細な音に意識が向けられる。作品の構想に関して「耳を澄ますと、鳥の声や足元の枯葉を踏む音が聞こえてくる、自然の気配に包まれた空間にしました」と語る。


広瀬菜々 & 永谷一馬は、ドイツでの滞在と制作経験を背景に、戦争と平和を巡る問いをテーマとした作品を発表した。作品にはドイツ語で「なぜ戦争があるのか」という言葉が示される。永谷は、「ドイツ語でこの問いを提示することで、歴史や社会の文脈を想起させながら受け止めてもらえたら」と話す。直接的なメッセージを掲げるのではなく、問いの形式を通して思考を促す。鑑賞者が立ち止まり、言葉と向き合う時間そのものが作品体験の一部となっている。
素材は、亜鉛鋼材の表面を削り出し、無数の擦過痕が残されている。刻まれた痕跡は光の反射によって濃淡が変化し、見る位置や距離によって異なる表情を見せる。

「旅」を主題にした品川亮の個展「ひとの多い方へ」は、京都国立博物館 明治古都館の茶室「堪庵」で開催されている。船や滝、水車などのモチーフが点在し、鑑賞者はそれらをたどるように巡る。

「旅という字には“人の多い方へ向かう”という意味があると知り、このタイトルにしました」と品川は話す。作品は、鑑賞者がゆっくりと向き合う時間が生まれるよう配置されている。
本展では墨や和紙といった素材が用いられており、「後の時代にも作品が残るよう、素材の選択にはとくに意識を向けています」と、将来にわたって残ることを見据えた素材選びについて語った。

「ARTISTS' FAIR KYOTO 2025 マイナビ ART AWARD」で最優秀賞を受賞した本岡景太は、個展「IMMANENT FOLD:図像と物質の内在的折り目」を東福寺大書院で開催。
本岡は、自身の彫刻について「絵として見ることもできる」と語る。色で染めた紙を貼り重ね、その重なりによって立体のかたちをつくり出すことで、絵画と彫刻の両方の性質をあわせ持つ作品を生み出している。

「見る位置や距離によって、彫刻として感じられたり、平面として立ち現れたりする。その揺れのなかで、存在のとらえ方そのものを考えてもらえたら」と語った。


京都の歴史的空間のなかで展開された展示は、作品の見方や鑑賞の時間そのものを見つめ直すきっかけとなった。そして、作家と来場者が言葉を交わしながら作品と向き合う、このフェアならではの体験を実感した。