「あそびば☺とーはく」会場風景 撮影:佐藤基
上野・東京国立博物館で3月1日まで開催中のプレイエリア「あそびば☺とーはく!」は、小学生以下を対象にした体験型企画だ。初回開催(2024年11月8日〜12月8日)に続く第2弾となる今回のテーマは、「日本のおめでたい模様」。「とーはくふじ」、ぬり絵やボールプールなど、子連れ鑑賞者のための多彩なアクティビティが多数用意されている。本稿では、子供向けプログラムが充実する海外のミュージアムの事例と比較しながら、日本最大の博物館が「遊び」に込めた意図と課題を考える。
重要文化財である東京国立博物館の本館の壮麗な大階段。奥の特別5室に設けられた「あそびば☺とーはく!」の中央にそびえる「とーはくふじ」(標高1.7m)は、初開催だった前回にはなかった「すべり台系」遊具だ。
日本の感覚からすると、目を剥くほど「遊び」が豊富な北欧のミュージアムですら、スライダー系は屋内ではほぼ見かけなかった。安全管理が厳しい日本の、それも国立の博物館としては「攻めている」と言える。ケガやトラブルへの免責事項が設けられているとはいえ、乳幼児と小学生が次々とヘッドスライディングする光景は、「本気で楽しませる」ことへの、東博の「覚悟」を感じさせる。

今回のテーマは「日本のおめでたい模様」。華やかなモチーフがあふれ、英語併記(一部に中国語・韓国語)が徹底した会場は、インバウンド受けもよさそうだ。重要文化財《色絵月梅図茶壺》のぬり絵に外国人らしい赤ちゃんがクレヨンで色付けし、「Beautiful!」とママに褒められる様子がほほえましい。

ぬり絵は海外でも定番中の定番。たとえば、台湾・台北の国立故宮博物院のプレイエリア(子供学芸センター)では、国宝《清 翠玉白菜》などのぬり絵をスキャナーにかけると、自分の絵が陳列棚に映し出されるという秀逸なアクティビティがある。

ここまでハイテクでなくても、展示室の片隅や、出入口の脇にぬり絵が常備されているだけで、子連れ鑑賞者としてはどれだけ救われるか。東博の本館1階にもぬり絵コーナーはあるが、安全のためかシートやペンが常備されていないのを残念に思う。
いっぽう、ボールプールから縁起物の鷹と茄子のぬいぐるみを探し出す「宝探し」の趣向は、スウェーデン・ストックホルムの国立歴史博物館の砂場で体験した、ビーズ探しのアクティビティと似ている。砂場だけに、ボールプールより難易度は高かった。当時3歳の次女はバケツとスコップで遊び始めてしまったが、6歳の長女は発掘現場さながらに砂をふるいにかけ、バイキング時代のアクセサリーを彷彿とさせる小さなビーズを「発掘」。

その達成感に比べると、大量のぬいぐるみが露わになったままのボールプールは、小学生には少し物足りないかもしれない。せっかくなら展示品とリンクしていたほうが、ミュージアムの「本丸」である展示への関心につながりやすい。その点では、特別展と連動して「埴輪探し」ができた前回のボールプールは、展示との接続性がより強かったと言えよう。

「子供が楽しめる場づくり・ユニバーサルデザイン」をヴィジョンに掲げる東博にとって、「あそびば☺とーはく!」はあくまで実験場。さらなる環境改善への意欲を垣間見せたのが、アンケートのとり方だ。

梅や富士など5種の縁起物の由来を書いた「あそびばみくじ」は、下部分が「とーはくへのメッセージカード」になっており、「保護者もぜひ」と推奨される。書いたあとはロープにかけておく仕様で、本物のおみくじのような日本的な体験をさせながら、同館への意見をしっかり吸い上げるあたり、ちゃっかりしている。

気に入ったアクティビティやエリアにシールを貼る「マップ型」の子供向けアンケートでは、年齢別に色分けされたシールを「一番楽しかったところ」に貼るというルールを無視して、見境なく何枚も貼ってしまうのは筆者の娘だけではあるまい。必ずしも実態を反映できないのが難点だけれど、色とりどりのシールで彩られたアンケートを見て思い出したのが、世界最古の国立博物館のひとつとされる、オランダのライデン国立古代博物館だ。
2025年夏の特別展では、「リフレクション(内省)」という取り組みが行われていた。「6000年前のうんち」の展示を前に、「歴史的」「美的」「経済的」など7種の「価値」から鑑賞者自身が考えて選び、色分けされたマグネットを展示品の周りに貼っていく、という具合だ。

ミュージアムにとっては鑑賞者の関心度合いや展示の見方を知るアンケートになるいっぽう、鑑賞者にとってはより主体的で深い鑑賞が促される。華やかなマグネットは見栄えもするし、子供の退屈しのぎにもなる。「貼る」アンケートには様々な効用が期待できる。
「あそびば☺とーはく!」ではほかに、インセンティブのあるタブレット型の大人向けアンケート調査もあった。カジュアルからフォーマルまで重層的なアンケート施策からは、利用者のニーズを多面的に掘り下げる狙いが感じられる。
子連れにとって「行きにくさ」は「生きにくさ」でもある。ミュージアムの領域では近年、そのニーズが顕在化してきている。
Tokyo Art Beatが2023年11月に実施した「子連れ美術鑑賞についてのアンケート」(有効回答701人)には、「(子供が)騒がないか、走らないか、ぶつからないか等を考えていたら鑑賞どころではない」といった切実な声が多数寄せられた。ミュージアム研究者の内海美由紀は、子連れに敬遠される要因がミュージアムの「静かな雰囲気」や発信不足にあることを、インタビュー調査などから指摘した(*1)。

子連れ鑑賞への支援は、将来の鑑賞者を育てるための先行投資でもある。多くのミュージアムが「キッズデー」を設けるなどハード・ソフト両面で支援策を展開するなか、東博は子育て世代を対象とした調査や、未就学児にフォーカスしたシンポジウムを実施。日本を代表するミュージアムとして「キッズフレンドリー」を打ち出しており、「あそびば☺とーはく!」はそのフラッグシップと言える。このような変化は、子連れ鑑賞者として本当にありがたい。ただ、海外と比べると、「あそびば☺とーはく!」が常設でないこと、そして展示から切り離されていることが気にかかる。
期間限定や事前予約制(土日祝日)だと、遠方に住む人や外国人には利用しにくい。また、プレイエリアが展示と物理的・内容的に離れていると、遊ぶだけで満足して帰ってしまったり、せっかく「行きにくさ」を克服して来た保護者が鑑賞できなかったりする可能性がある。

筆者もヨーロッパ各国のミュージアムを巡った際、とくに北欧はプレイエリアが充実し過ぎて、娘に付き添うあまり展示を鑑賞できないことが何度かあった。それでも、ある程度満足できたのは、先に挙げたスウェーデン国立歴史博物館の砂場のように、「遊び」が大人の「学び」にもつながりやすい設計のケースが多かったからだ。
「あそびば☺とーはく!」も、伝統の模様や縁起物について学べる要素はあった。ただ、たとえばボールプールの縁起物を、より展示とリンクしたものにできなかっただろうか。あるいは、遊んだあとにそのまま平常展(東博コレクション展)へ向かい、本物の「宝探し」ができるような仕掛けを「はくぶつかんへようこそ!」と題した多言語の子供向けパンフレットに盛り込んではどうだったろうか。
ヨーロッパのミュージアムや教会、古城などの文化遺産では、プレイエリア以上に、回遊式プログラムが常設されている例が非常に多かった。イギリスのソールズベリー・ミュージアムが提供する「ディスカバリー・トレイル」は、考古学者になったつもりで展示室を巡りながら、パンフレットに載っている展示品を探したり、クイズに答えたりできるというものだ。年齢によって難易度に差があっても、たとえば「青銅器時代の犬の骨格」の写真を見ながら本物を探すのは、小さい子供でもそれほど難しくない。

親にとっても、子供と目線を合わせることで、思いがけない発見に出会えることがあるのが回遊式の魅力だ。東博も、ワークシートを一定の期間や日時に配布したり、オンラインでダウンロードできるようにしたりしている。それをより恒常的・リアル配布にすることで、いつでも、誰でも利用しやすいプログラムになるのではないか。
もちろん、日本と海外では、ミュージアムの財政基盤や運営体制、そして社会での位置づけが大きく異なる。一足飛びに課題が解決されるものではない。ただ、「あそびば☺とーはく!」の大人向けアンケートには、「常設にする」「展示との接続性」といった趣旨の項目が、改善点の選択肢としてあった。選択肢にあるからには、実現不可能ではないだろう。
ミュージアムの「遊び」には、その館の「未来への思い」が込められている。鑑賞への支援で恩恵を受けるのは、子供と親だけではない。ミュージアムと鑑賞者が、これまで「行きにくさ」を感じていた多様な人々に想像を巡らせ、ともに解決策を考え進んでいくための足がかりになり得る。筆者もその歩みに連なっていきたい。

1——「なぜ子育て中の親は美術館利用を敬遠するのか―バリアフリーと子ども連れの距離に着目してー」内海美由紀(日本博物館教育研究所、日本大学非常勤講師)学習社会研究 第5号(2023)