会場風景
1993年の開館以来、徳川家康の江戸入府から現代までの約400年間を中心に、実物資料や復元模型・体験型資料を用いて紹介してきた東京・両国の江戸東京博物館。2022年4月より大規模改修工事のため休館していたが、約3年の時を経て3月31日にリニューアルオープンする。
今回の改修は設備更新にとどまらず、空間演出・体験型展示・多言語対応といった複数の観点から展示室を刷新するものだ。5・6階の2フロア、約9000㎡にわたる常設展示室がどのように生まれ変わったのか、主な見どころを紹介したい。

今回のリニューアルの注目ポイントのひとつは、建築家・重松象平がパートナーを務める世界的建築設計事務所OMA(Office for Metropolitan Architecture)とともに施された、館内外の空間デザインだ。なかでも、1階西側からのアプローチに設置された「鳥居」をモチーフとしたオブジェは必見。それぞれの側面にはLEDパネルが埋め込まれており、現代から明治・大正を経て江戸へと向かう人々の姿が投影される。夕方の時間帯には現代へ戻る人々の姿に切り替わり、画面をよく見るとレアなキャラクターがひっそりと混じっていることもある。さらに、モニュメントの高さが奥に向かって徐々に低くなるよう設計されており、視覚的・身体的に江戸の世界へと引き込まれていく演出となっている。


中へと進もう。エレベーターで6階に到着すると、まず圧倒されるのが頭上に広がる映像だ。これまで活用されていなかった天井付近の壁面に新設されたスクリーンには、江戸と現代の空をイメージした映像が常時投影され、朝から昼、夕方、夜へと刻々と移り変わる。季節によっても変化するため、来るたびに異なる光景が広がる。「日本橋」、芝居小屋「中村座」、「服部時計店」という3つの超大型模型を映像が包み込むかたちで、展示室全体がひとつのダイナミックなパノラマとして体験できる空間として生まれ変わった。


日本橋を渡った先には、巨大なのれんをモチーフとした演出が新たに施されている。「この先に何があるのか」というわくわく感を演出するためのもので、のれんは実際に手で分けてくぐって進む仕掛けだ。

その先に広がるギャラリー空間では、開館を記念して貴重な甲冑11領が並ぶ。同館が所蔵する甲冑コレクションのほぼ全点にあたるという。四方向から各甲冑を間近に見られるレイアウトで、普段はなかなか見られない角度からの鑑賞が可能だ。展示期間は5月10日まで。終了後は工芸品などの別展示へと切り替わる予定とのことで、早めに訪れてほしい。

6階からエスカレーターで降りて、江戸ゾーンへ。ここでは主に江戸の町人の日常生活を紹介する空間が広がる。
注目してほしいのは、江戸の表通りの景観を再現した展示だ。今回、通路には町並みの演出が新たに施され、水売り・朝顔売り・様々な屋台が配置されている。背景には歌川広重の絵をもとにしたグラフィックが大きく展開され、屋台のある江戸の街角をそのまま歩いているような感覚を強化。光も朝から昼、夕方、夜へと刻々と変化し、朝顔売りの着物が季節によって替わるという細部へのこだわりも見どころだ。寿司の屋台は以前からの人気展示で、今回は天ぷら屋台が新たに加わった。


先ほど渡った日本橋の下に戻ると、目に飛び込んでくるのが江戸ゾーンの象徴である実物大の芝居小屋「中村座」だ。幅20mのファサードを再現した大型模型である。「中に入ってみたい」という要望が多く寄せられていたことから、今回の改修で内部に通れる道が新設された。芝居声や音響を感じ取れる演出も加わり、これまで「見る展示」だった中村座がよりインタラクティブな体験へと変わった。見学後は展示スペースに置かれた模型で内部構造を確認できる。自分が歩いたのがどの部分にあたるかを照らし合わせてみるのも楽しい。


江戸ゾーンの見どころをもうひとつ紹介したい。新設された「江戸の美」コーナーは、従来の常設展示的な空間からギャラリー形式へと改装。開館を記念した最初の1ヶ月間は、歌川広重の代表作「名所江戸百景」119点が一堂に展示される。
「名所江戸百景」は、歌川広重(1797〜1858)が最晩年に手がけた名所絵の集大成だ。安政3年(1856)から同5年にかけて118枚が初代広重の落款で刊行され、初代没後の同6年に弟子・二代広重による一図が追加。さらに梅亭玄魚による目録1枚を加えた全120点からなる。本作は日本にとどまらず海外の芸術家にも影響を与え、とりわけゴッホが鮮明な色彩で模写したことはよく知られている。

展示では旅のしおりをイメージしたデザインの額装で作品が並び、江戸の都市空間を俯瞰的に読み解ける構成となっている。目ぼしい作品にはQRコードが付いており、スマートフォンでかざすと絵に描かれた場所と現在の場所を比較して見ることができる。

東京ゾーンでは、開館以来30年間、同ゾーンの象徴として親しまれてきた大型模型が刷新された。明治7年創業の「朝野新聞社」から、明治28年に銀座で営業を開始した「服部時計店」へと改修されたもので、展示室の天井に届く高さ約26mの迫力は圧巻だ。実際の建物が歴史とともに変遷してきた経緯に倣い、開館30年のタイミングで模型もアップデートされたという。

旧モデルでは横から展示室に入る動線だったが、服部時計店への改修に伴い正面玄関から入り込む動線に切り替わり、「文明開化の東京」への入口として機能する構成となった。館内では1時間ごとに時計塔の鐘の音が響く演出もある。

東京ゾーンでは新たに復元・設置された模型も充実している。明治30年代の浅草花屋敷の門は、現在も営業を続ける浅草花やしきの前身にあたる施設だ。名前の通り植物園・庭園として始まり、のちに見せ物・芝居・珍しい動物の飼育など多彩な娯楽施設へと発展した庶民の憩いの場を、門の意匠とともに再現している。門をくぐると、当時の日本ではまだ珍しかった虎などの動物にまつわる展示も待ち受ける。


関東大震災コーナーには、日本最古の乗り合いバス「円太郎バス」が展示される。2020年に自動車として初めて国の重要文化財に指定された実物資料だ。1923年9月1日の関東大震災では交通インフラも壊滅的な被害を受けた。震災後、東京市はアメリカから800台の貨物自動車を借り受け、それを改造した11人乗りのバスを制作。翌1924年1月から乗り合いバスとして運行を開始したのがこの円太郎バスである。隣では、震災から復興へと向かう当時の映像も上映されている。

以前から人気を集める年表展示は、1960年代から10年ごとにその時代に流行したものやCMなどをたどれる構成で、今回のリニューアルで2010年代が新たに加わった。開館から30年が経ち、「現代」も歴史として展示の対象に入ってきた。自分の記憶と重なる展示に、思わず足を止める来館者も現れるだろう。さらに、「2020東京オリンピック・パラリンピック」のアーカイヴ展示も登場し、近年の東京の歴史を振り返ることができる。


リニューアルされたのは建物と展示だけではない。音声ガイドは専用機器の貸出から、来館者のスマートフォンで利用できるQRコード方式へと刷新され、13言語に対応。また、展示室各所には触れる模型・解説動画・ピクトグラムなども配置され、言語や特定の感覚に依存しない鑑賞環境が整った。

1993年の開館以来、国内のみならず海外の観光客にも親しまれてきた江戸東京博物館。リニューアルされた常設展示とあわせて、再開館後初の特別展「江戸東京博物館リニューアル記念特別展『大江戸礼賛』」(4月25日〜5月24日)にも注目してほしい。
灰咲光那(編集部)
灰咲光那(編集部)