ボディス・イセク・キンゲレス Projet pour le Kinshasa du troisième millénaire 1997
2025年10月、カルティエ現代美術財団が、パリ中心部・パレロワイヤル広場2番地に新拠点をオープンした。ルーヴル美術館の向かいというパリを象徴とするロケーションに誕生したこの空間は、1984年の創設以来、ジャンルや地域を越えて現代アートを支援してきた財団の新たな時代の幕開けを告げた。
新しい拠点は、かつて「グランドホテル・デュ・ルーヴル」および「グランマガザン・デュ・ルーヴル」として使用されていた歴史的建造物。1854〜55年に建設されたこの建築を、ジャン・ヌーヴェルが改修し、過去と未来をつなぐ革新的な空間として再生させた。総面積8500㎡、うち約6500㎡を展示面積とする広大な空間には、5つの可動プラットフォームを備え、展示構成を自由に変化させられるモジュール設計が導入されている。ガラス張りのファサードを通してパリの街並みを一望できる開放的な構造は、都市とアートを結びつける「開かれた美術館」としての理念を体現している。過去と未来がつながる場所として、都市計画や環境といった現代の課題にも、アートの視点を用いて積極的に取り組んでいる。


オープニングを飾る展覧会「エクスポジション ジェネラル(Exposition Générale)」は、10月25日から2026年8月23日まで開催中だ。カルティエ現代美術財団の40年にわたるコレクションを、約600点・100組以上のアーティストの作品によって紹介。参加アーティストには、クラウディア・アンデュジャール、ジェームズ・タレル、サラ・ジー、オルガ・デ・アマラル、蔡国強、デヴィッド・リンチ、アネット・メサジェなど、国際的に著名な作家が名を連ねる。さらに日本からは、杉本博司、横尾忠則、川内倫子、石上純也といった、これまで財団とゆかりのあるアーティストたちが出展している点も注目だ。





展覧会は、「建築という装置(Machines d’architecture)」、「自然であること(Être nature)」、「ものをつくる(Making Things)」、「現実の世界(Un monde réel)」という4つのメインテーマで構成され、科学・技術・素材・生態系といった多様な領域を横断しながら、アートの実験性と現代社会の関係を探る。展示デザインを担当したのは、オランダを拠点とするデザインデュオ、フォルマファンタズマ。19世紀にこの建物で開催されていた「エクスポジション・ジェネラル」から着想を得て、かつての万国博覧会の精神を現代的に再構築している。展示空間自体が、社会と技術、芸術の接点を可視化する批評的な場となった。
本展は都市の中でアートをどのように位置づけるかという問いに対する、カルティエ現代美術財団の明確な回答でもある。大通りに面した透明なファサードや地下通路「ギャラリー・ヴァロワ」などを通じて、建物の内と外が連続し、通行人が自然に展示の一部を体験できる構造となっている。また、2026年春にはワークショップや教育プログラムを行うスペース「La Manufacture」が新設され、子供から大人までがアートに触れ、学ぶための場が提供される予定だ。
歴史的建造物の再生、都市への開放、そして多様なアーティストの共演。カルティエ現代美術財団の新拠点は、たんなる移転ではなく、「建築と現代アートの交差点」として、21世紀のミュージアム像を更新する試みとなる。財団の40年を振り返りながらも、その先の未来を見据えるオープニング展「エクスポジション ジェネラル」は、まさにその新しい出発点を象徴している。