フリーズ・ロサンゼルス エントランス
会場をサンタモニカ空港へと完全移転し、7回目で新たなフェーズに入ったフリーズ・ロサンゼルス(Frieze Los Angeles 2026)。多数の入場者で賑わったが、このアートフェアを中心としたアートウィークの魅力はフェア会場内だけにとどまらない。サンタモニカ、ハリウッド、ダウンタウン、そして新興のアートエリアまで、ロサンゼルス全エリアで同時多発的に開催される重要な展覧会とサテライトフェアを巡り、2026年のロサンゼルスの最新アートシーンをレポートする。

ロサンゼルス近郊のギャラリー Various Small Fireからは、大御所ジェシー・ホーマー・フレンチ(Jessie Homer French)による山火事の過去作のシリーズが取り上げられていた。昨年の同フェアはロサンゼルス近郊で大規模な山火事が発生した直後に開催され、アート界でもチャリティーや支援活動の文脈が強いタイミングだった。

フェア関係者は昨年はすこし悲壮感もあったと語ったが、今年のロサンゼルスはカラッと晴れわたり、2月にもかかわらず摂氏32度にも届く暑い週末になった。


地球がサッカーコートを転がる……!
— Tokyo Art Beat (@TokyoArtBeat_JP) February 27, 2026
アマンダ・ロス=ホーによるパフォーマンス pic.twitter.com/sbqysIXynL


日本からのブースはタカ・イシイギャラリーとKaikai Kiki Galleryの2軒ではあったが、Bel Amiは松原壮志朗のソロで発表している。京都にも支店を構えるNonaka Hillでは福永大介、合田佐和子など日本人のみでのプレゼンテーションが展開された。


The Pitでも金子淳の立体が出ていたほか、フランク・エルバスでは岡﨑乾二郎も出展。西海岸でも日本のアーティストの人気が強まってきていることが実感できるフェアだ。

ルイナールのブースでは、川俣正とのコラボレーションによる新作小品が展示された。

そのほか、ソニー・ホンダモビリティは、今年カリフォルニア州で納車開始予定の次世代電気自動車AFEELAで、ロサンゼルスのアーティストのマット・コプソンとコラボレーションしている。AFEELAは今月東京で開催される「SORAYAMA 光・透明・反射 -TOKYO-」でも空山基とのコラボレーションカーを発表予定だ。

フリーズの会場のエリアでもあるサンタモニカでは、元郵便局の建物を活用したアートフェア 「Post Fair」が開催された。昨年の1回目から注目を集めるオルタナティブ感あふれる同フェアは、夕方以降は道路工事の照明を活用していてかなり作品の見づらさはあったが、日本からも小山登美夫ギャラリー、MISAKO & ROSEN、KAYOKOYUKIが参加。



さらに、99セントストアをジャックしたイベントが3月1日まで期間限定で開催された。日本でもおなじみのバリー・マッギーがThe Hole、ジェフリー・ダイチと協力して99セントストア跡地を占拠。店舗の通路や棚をそのまま使い、DIY精神あふれる作品やパフォーマンスが展開されていた。



このほか、ハリウッドのローズヴェルト・ホテルでのアートフェア 「Felix Art Fair」には日本からはCOHJUとSOM GALLERYが出展していた。

また、ロサンゼルスの版画工房として長い歴史を持つGemini G.E.L.も今年60周年を迎え、フリーズ・ロサンゼルスと連動するかたちで展覧会「Impressions of Los Angeles: 60 Years of Printmaking」を開催している。1966年の創設以来、デイヴィッド・ホックニー、ジャスパー・ジョーンズ、ロイ・リキテンスタイン、エド・ルシェら数多くの作家がここで版画制作を行ってきた。ロサンゼルスのアート史において、作家と工房の密接な協働を支えてきた重要な拠点のひとつだ。

ノンプロフィットのスペース 「The Brick」では、ロサンゼルス現代美術館(MOCA)に新収蔵された話題作が公開されている。

カラ・ウォーカーの《Unmanned Drone》は、米ヴァージニア州シャーロッツヴィル中心部の旧ジャクソン・パーク(現ジャスティス・パーク)に立っていた南軍将軍トーマス・J・“ストーンウォール”・ジャクソンの騎馬像を素材に制作された。

像は1921年に公共記念碑として設置されたが、人種差別的歴史観を象徴する存在として撤去を求める市民運動が広がり、2017年には移設計画をめぐって白人至上主義団体と反対派の衝突で死者を出す事件に発展した。長期の法廷闘争を経て像は2021年に撤去され、ウォーカーはその実物を解体し断片化したかたちで再構成した。英雄像としての威厳を解体し、公共記念碑が背負ってきた歴史認識と政治性を可視化する作品となっている。
The BrickはMOCA Geffenで開催中の「MONUMENTS」展も共催している。記念碑の撤去をめぐる近年の政治的・社会的議論を整理する、まさに「記念碑」的な展覧会で、必ずあわせて見ておきたい展覧会だ。


フェアと並行して、ロサンゼルスの主要美術館でも見逃せない展覧会が相次いでいる。
ロサンゼルス・カウンティ美術館(LACMA)では、近年の国際現代美術を扱う展示が複数開催されており、都市のコレクションの厚みを感じさせる構成となっている。建設中の新本館「デイヴィッド・ゲフィン・ギャラリー(David Geffen Gallery)」が今年4月にオープンを控えているのと、また近年コレクション展示の再編を進めており、フェア期間中も多くの関係者が訪れていた。


いっぽう、丘の上に位置するゲティ・センターでは、「Photography and the Black Arts Movement, 1955–1985」が開催中だ。公民権運動と並行して発展したブラック・アーツ・ムーブメントにおける写真表現を検証する展覧会で、ゴードン・パークス(Gordon Parks)やロイ・デカラヴァ(Roy DeCarava)といった作家の作品を通して、政治・文化運動と視覚芸術の関係を読み解く内容となっている。アメリカ社会の歴史とアートの関係を再考させる展示として、国際的な来館者の関心も高い。


ゲティ・センターではさらに、フェミニスト・アート集団ゲリラ・ガールズ(Guerrilla Girls)の活動を紹介する展示「How to Be a Guerrilla Girl」も行われている。1980年代以降、美術界におけるジェンダーや人種の不均衡を鋭い統計とユーモアで告発してきた彼女たちのポスターや資料が並び、現在の美術制度をめぐる議論とも重なる内容となっていた。

また、今年のアートウィークでは、ユリア・シュトシェック・ファウンデーション(Julia Stoschek Foundation)によるプログラム「WHAT A WONDERFUL WORLD」も話題を集めている。同財団はドイツ・デュッセルドルフとベルリンを拠点とする映像・メディアアートのコレクションで知られ、ロサンゼルスでは上映やパフォーマンスが展開されている。廃墟のようなダウンタウンの劇場跡地を舞台にした展示は、入場無料かつポップコーンも食べ放題と、ロサンゼルスのアートシーンが持つ実験的な空気を象徴するものだった。



ダウンタウンといえば、市内のデイヴィッド・コルダンスキー・ギャラリー(David Kordansky Gallery)ではこの作品にひとだかりができていた。精緻なグラフィティの表現で人気のセイヤー・ゴメス(Sayre Gomez)がほぼ完璧に再現した、いまは廃墟となっているダウンタウンの「グラフィティ・タワー」のミニチュア立体作品《Oceanwide Plaza》だ。

「グラフィティ・タワー」はダウンタウンの高層ビル開発が途中で頓挫した建設現場で、長年放置された建物が世界中のグラフィティ・ライターによって覆われ、ロサンゼルスの象徴的な風景となっていた。だが安全上の理由などから2024年に全面的に塗りつぶされ、その姿は失われている。
ゴメスはロサンゼルスの看板、空き店舗、ガソリンスタンドなど都市の風景を写実的に再現する作品で知られる作家だが、この作品では消えてしまった都市の記憶そのものを彫刻として保存するようなアプローチをとっている。SNSで話題になり、この小さな建築模型の前には絶えず人が集まり、スマートフォンで写真を撮る来場者の姿が目立っていた。
2026年のフリーズアートウィークは、The Broadの新館やDATALANDのオープンを控えて盛り上がるのとは対照的に、世界の政治状況が影を落とした。フェアの週末にアメリカとイスラエルによる攻撃でイランをめぐる軍事的緊張が高まり、ガザを含む地域紛争は依然として続いている。ロサンゼルス市内でもリトル・トーキョーなどで激しく抗議デモが行われている。

今回のアートウィークで目立ったのは、まさにそのような歴史や権力構造を可視化する作品だった。アートフェアはしばしばマーケットの場のみとして語られるが、世界の政治的緊張や歴史的対立について作品を通して議論する場の意味はむしろ強まっている。ロサンゼルスでは、リベラルな空間が自然と醸成されている雰囲気も感じた。


ロサンゼルス現代美術館で鑑賞中に、美術批評家のハンス・ウルリッヒ=オブリストと会い、立ち話をした。「日本では同じような経緯での銅像の撤去はほとんど起きてこなかったが、これから必ず対峙しなければならなくなるだろう」と自分の考えを伝えたが、この会話の持つ意味が数年後どう変容していいくのか、見極めていきたい。