「生誕100年 森英恵 ヴァイタル・タイプ」(島根県立石見美術館、2025年)会場風景 撮影:小川真輝
アジア人で初めてパリ・オートクチュール正会員となり、日本のファッションを牽引した森英恵。2025年9月より故郷である島根県立石見美術館で開催された大規模回顧展が、2026年春に国立新美術館へと巡回する。会期は4月15日~7月6日。

1950年代にキャリアを開始した森英恵は、当初、映画衣装の制作を通じて頭角を現す。戦後の高度経済成長期の日本において、家庭を持ちながらデザイナーとして社会的にも大きな仕事を成し遂げる姿は、新しい女性像の先駆けとなった。展覧会のタイトルにある「ヴァイタル・タイプ」とは、森が61年に雑誌『装苑』にて提唱した新しい女性イメージを指す言葉。快活で努力を惜しまないその姿は、世界を股にかけて活躍した森の生き方とも大きく重なる。


本展は、オートクチュールのドレス、資料、初公開となる作品を含む約400点を展覧。森のものづくりの全貌を明らかにするとともに、その生き方と創造の根幹にも迫る。
会場には1977年から27年間にわたり、森英恵がライフワークとして取り組んだ膨大な数のオートクチュールコレクションが集結。展示は各ドレスのテーマごとに構成される予定だ。なかでも注目したいのは、日本初公開となるメトロポリタン美術館蔵の作品。日本美術の高名なコレクターであったメアリー・グリッグス・バークが注文した、伊藤若冲《月下白梅図》(1755)に着想を得たドレスを含む、4点が東京展のために出品される。

また、本展では森が力を注いだ日本産の帯地や絹織物で制作した作品にも注目。最新の研究によって発見されたた布の原画や試し刷りなども展覧される。

森がデザイナーとしての活動を始めた50年代は、日本のファッション文化がまだ発展途上な時期であった。66年に自身の店舗の情報誌として発行された『森英恵流行通信』や、後継誌である『流行通信』は、その後日本を代表するファッション誌として発展する。 本展では、森英恵がファッションを文化にするために力を注いだメディア発信や、アーティストとの協働にも光を当てる。

生誕100年という節目に開催される本展は、たんに森英恵というデザイナーの仕事を振り返るのみならず、日本におけるファッション文化成立の過程に迫るまたとない機会となりそうだ。