公開日:2025年10月25日

弘前れんが倉庫美術館と十和田市現代美術館が2026年の展覧会スケジュールを発表。来年青森で見るべき現代美術展は?

弘前れんが倉庫美術館と十和田市現代美術館が2026年展覧会スケジュールを発表。杉戸洋、国松希根太、風間サチコ、椿昇、スティーヴ・ビショップの個展と「⼤正⇆令和アヴァンギャルド(仮称)」を開催

国松希根太 奥入瀬のブナを使った制作風景 2025年9月26日 十和田市 撮影:小山田邦哉

10月23日、都内で弘前れんが倉庫美術館十和田市現代美術館による合同記者会見が開催され、2026年の展覧会スケジュールが発表された。注目アーティストが続々登場する展覧会の詳細を見ていこう。

◎ 弘前れんが倉庫美術館

弘前れんが倉庫美術館は、明治・大正期に酒造工場として建設され、戦後はシードル工場として使われた煉瓦造の建物を、建築家の田根剛が改修を手がけ、2020年に現代美術館として開館した。弘前をはじめとする東北地域の歴史や文化を継承しつつ、土地や建物に呼応するような、国内外の先進的なアーティストたちによる作品を紹介している。現在は開館5周年記念展「ニュー・ユートピア──わたしたちがつくる新しい生態系」が11月16日まで開催中だ。レポートはこちら

杉戸洋 untitled 2022 作家蔵 ©︎ Hiroshi Sugito, Courtesy of Tomio Koyama Gallery Photo by Hiroshi Sugito

「杉⼾洋展:えりとへり / flyleaf and liner」(12⽉5⽇〜2026年5⽉17⽇)

開館5周年記念の締めくくりとして、現代日本を代表する画家・杉戸洋の個展が12月5日から開催される。1990年代から国内外で作品発表を続けてきた杉戸は、小さな家や船、果物、木々や雨粒といった身近なものや自然をモチーフに、線や幾何学的図形とともに繊細かつリズミカルに構成し、みずみずしい色彩で描き出してきた。

本展で杉戸が着目するのは「余白」。それは絵画の裏側でキャンバスを囲む「えり」や「へり」として貼られた紙や木片、本の表紙をめくると現れる「あそび紙(flyleaf)」、洋服の「裏地(liner)」など、すぐには気がつかない場所にあるもの。杉戸はそれらの前で立ち止まり、心を傾けることから制作を始めるという。

杉戸洋 untitled 2017 作家蔵 ©︎ Hiroshi Sugito, Courtesy of Tomio Koyama Gallery Photo by Kenji Takahashi

注目すべきは、グラフィックデザイナー・服部一成とのコラボレーションだ。服部の仕事のなかでも杉戸が強く印象に残っていると語るのが、ファッション雑誌『流行通信』のアートディレクション。多様なクリエイターが関わることで作られていた同誌は、ファッションという垣根を超えた創造的刺激にあふれていた。服部自身が撮影した写真やコラージュからなる大胆かつ自由な誌面構成について、杉戸は「制作する上でのヒントがあった」という。本展では、杉戸の作品に触発されて服部がデザインした壁紙に加え、それにさらに影響を受けた杉戸の絵画が展示される。

杉戸洋 untitled 2025 作家蔵 ©︎ Hiroshi Sugito Photo by Hiroshi Sugito

さらに特別出品として、杉戸と弘前市出身の奈良美智が2004年に共作した作品も展示される。美大を目指していた高校時代の杉戸は、愛知県立芸術大学に通いながら講師をしていた奈良と出会い、その後も親交を深めてきた。2004年にオーストリア・ウィーンでの滞在制作中にコラボレーションを行い、2006年には美術館になる前の煉瓦倉庫で開催された「YOSHITOMO NARA + graf A to Z」展に参加している。杉戸にとってそうした弘前の記憶は『流行通信』の時代とも重なり合うという。ふたりのコラボレーションは、同館の空間や土地の記憶にも共鳴するものになるだろう。

杉戸洋 color tree 2 1994/2024 作家蔵 ©︎ Hiroshi Sugito, Courtesy of Tomio Koyama Gallery Photo by Kenji Takahashi

「⾵間サチコ展:⽅丈ルームの1000⾥眼」(2026年6⽉5⽇〜11⽉15⽇[予定])

木版画で知られる風間サチコは、これまでは近代化によって変化した⽇本社会に関⼼を寄せ、その⽭盾や⽪⾁な状況を描いてきた。本展は作家にとって東北初の個展となり、近年の⼤型⽊版画に加え、⻘森の景勝地の⾵景と物語の世界を組み合わせた、新たな挑戦となる⾊鮮やかな絵画を発表する。

⾵間サチコ 作家アトリエにて 2025

「⼤正⇆令和アヴァンギャルド(仮称)」(2026年12⽉4⽇〜2027年5⽉16⽇[予定])

⼤正から昭和初期の前衛美術と、令和に制作された現代作家の作品を対置して紹介する展覧会。⽇本で前衛的な芸術表現が花開いた⼤正時代は、同館が建設された時期でもある。本展は、100年のときを超えて共通する、既成の価値観に抗い⾃由を模索する作家たちの表現を通じて、⽇常の⾵景や出来事を新しい視座からとらえるきっかけとなる。

⾬宮庸介 チャールズのかしの⽊座にりんごの実のなる 2021 弘前れんが倉庫美術館 展⽰⾵景 Photo: ToLoLo Studio (参考図版)

◎ 十和田市現代美術館

十和田市現代美術館は東北初の現代美術館として2008年に開館。人間と自然をテーマに、草間彌生、奈良美智、ロン・ミュエクなど世界で活躍するアーティストらの作品を常設展示している。館内だけではなく、周辺のアート広場や商店街にも作品が点在し、まち全体でアートを楽しむことができる。現在はオーストリアのアーティスト、エルヴィン・ヴルムの個展「エルヴィン・ヴルム 人のかたち」が11月16日まで開催中。レポートはこちら

国松希根太 奥入瀬のブナを使った制作風景 2025年9月26日 十和田市 撮影:小山田邦哉

「国松希根太 連鎖する息吹」(12月13日〜2026年5月10日)

北海道を拠点とする彫刻家の国松希根太は、2000年代初頭より北海道中南部・白老の内陸に位置する飛生の旧小学校を改造した「飛生アートコミュニティー」を拠点に活動してきた。北の大地で長い年月を経て独自のフォルムを形成した木々と出会うことで作品を制作している。近年は地平線や水平線、山脈、洞窟などの風景の中に存在する輪郭(境界)を題材に、彫刻や絵画、インスタレーションなどを発表している。本展は美術館での初の個展となる。

国松希根太 下北のヒバを使った新作 7 sculpture sketches 制作風景 2025年8月15日 北海道・飛生のアトリエ 撮影:国松希根太

国松の制作は、木の表面や内部に鑿(のみ)などの刃や火を入れたり、鉱物や雪など大地の素材に向き合うことから生まれる。これらは、国松と自然との一期一会のコミュニケーションでもある。2009年より「飛生アートコミュニティー」において敷地内の森を守りながら「飛生芸術祭」を開催、2015年よりAyoro Laboratoryとして近隣のアヨロと呼ばれる地域を中心に土地を探索するフィールドワークを展開しており、北海道を中心に幅広く活動している。

国松希根太 奥入瀬のブナを使った 制作風景 2025年9月26日 十和田市 撮影:小山田邦哉

本展では、国松の代表的な作品に加え、十和田の自然と出会うことによって生まれた新作を披露する。なかでも、奥入瀬のブナを用いた十和田での滞在制作をはじめとする、青森の木を素材とした新作が発表される予定だ。さらに、父で彫刻家の国松明日香、画家である祖父の国松登へと連なる作家の系譜も紹介される。

国松希根太 HORIZON 2017 80×180cm 板にアクリル絵具と木炭/鉄 撮影:瀧原界 (参考写真)

展示は、国松の代表作である巨木を素材にした彫刻〈WORMHOLE〉シリーズが林立する大きな空間から始まる。廊下は十和田湖・奥入瀬渓流の風景を念頭に制作された下北のヒバを使った彫刻で構成される。その奥には、奥入瀬のブナを使い十和田で滞在制作された《WORMHOLE》が人々を迎える構成となる予定だ。

国松希根太 WORMHOLE 2025 約390×120×100cm 木(ミズナラ)  2025 日本国際博覧会 展示風景 撮影:忽那光一郎 参考写真

「椿昇 フリーダム(仮称)」(2026年6⽉6⽇〜11⽉8⽇[予定])

椿昇は、巨⼤⽣命体の造形を通して資本主義社会への問いを投げかけてきた、1980年代以降活躍する⽇本を代表する現代美術家のひとりである。同館には真紅の巨⼤ロボットアリ《アッタ》が⽇本で唯⼀常設展⽰されている。14年ぶりの今回の個展では、制作活動40年を超える椿の最新作を中⼼に、異なる技法と様式による作品群を紹介する。

「椿昇 フリーダム」キーヴィジュアル デザイン:美⼭有

「スティーヴ・ビショップ展(仮称)」(2026年12⽉5⽇〜2027年5⽉9⽇[予定])

映像・⾳響・彫刻を組み合わせた没⼊型インスタレーションで、不在や記憶といった⽬に⾒えない主題を扱うロンドン在住のスティーヴ・ビショップ。鑑賞者の⾝体感覚や記憶を刺激し、現代における「実存」の意味を問いかけてきた。⽇本の美術館で初個展となる本展では、初期代表作から世界初公開の最新作までを展⽰する。

スティーヴ・ビショップ The Caretaker 2018 Installation View Steve Bishop The Caretaker Galeria Jaqueline Martins, São Paulo 2020 © Steve Bishop 2025 Courtesy the artist and Carlos/Ishikawa, London.

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