大阪アニメ・声優&eスポーツ専門学校の高澤優斗さん、廣谷ひよりさん、「Immersive Media Lab++」ディレクターのDiscont 撮影:中島良平
没入型XRシアターや商業施設のアトラクション、アートを用いたイマーシブ展示など、場所に応じたロケーションベースエンターテインメント(LBE)の増加を背景に、次世代の映像表現を担う人材を育成・輩出すべく、滋慶学園COMグループと株式会社STYLYが共同で立ち上げたプロジェクト「Immersive Media Lab++」。空間映像や体験設計など多様な領域を横断し、デジタルとフィジカルを融合させた3D空間でのコンテンツ制作技術を学ぶためのプロジェクトとして2027年以降のカリキュラム創立を目指し、様々なプログラムを展開している。
プロジェクトのディレクターを務めるSTYLYのDiscontは、2025〜26年春にかけて初年度を終え、成果と課題が見えてきたと話す。「Immersive Media Lab++」が目指すものは何か、また実際に参加する学生たちはプログラムのなかでどのような壁にぶつかり、どんな手応えを得たのか。今回は、滋慶COMグループの姉妹校の学生から3名1組のチームが10組参加し、昨年12月に開催された3日間のハッカソン「Global Field Challenge」の優勝チームで、アメリカ視察を終えた大阪アニメ・声優&eスポーツ専門学校の学生2名とDiscontにインタビュー。2025年度の成果発表展示「没入のプロトタイプ展」(3月29日、会場:渋谷サクラステージ「404 Not Found」)の開催を前に話を聞いた。
──今回の鼎談では、ハッカソン「Global Field Challenge」で優勝した大阪アニメ・声優&eスポーツ専門学校の廣谷ひよりさんと高澤優斗さんに、ハッカソンで苦労した点やアメリカ視察で得た展望などについて伺いたいと思うのですが、まず初めに、「Immersive Media Lab++」を立ち上げた経緯についてDiscontさんにお聞きしたいと思います。
Discont 現在は没入型シアターや、XR技術によって、その場所でしかできない没入体験を楽しめるロケーションベースエンターテインメント(LBE)をはじめ、イマーシブな体験型コンテンツが世界的に増えていて、人気を集めています。いっぽうで現場の作り手の状況にフォーカスすると、来場者の動線や空間音響をどう設計するか、デバイスをどう組み合わせるかなど、横断的な知識がないと立ち行かなくなってしまう。そこで、日本のクリエイターがもっとグローバルに活躍することで、日本のコンテンツ産業を盛り上げていきたいという展望を描く文化芸術活動基盤強化基金(クリエイター支援基金)への採択のもと(*1)、それらを横断的に学べる機会を創出し、グローバルな視点を持って次世代の映像クリエイター育成を行うべく立ち上げたのが、「Immersive Media Lab++」です。

──VR技術によって没入型コンテンツとなっているアート展も人気を集めていますし、チームラボをはじめとするクリエイターが手がけたLBE施設も、各地で人気スポットとなっている印象ですが、まだVRが普及して日が浅いこともあるので、人材育成は喫緊の課題と言えるのかもしれません。
Discont 僕らはプラットフォーマーとして、「クリエイターが育ち、制作を行える場ができ、来場者が集まる」というエコシステムが生まれなければ、市場が継続的に盛り上がっていかないということをずっと感じています。そこで、「イマーシブ」を体験者がコンテンツの外側にいるのではなく、コンテンツと一体化する状態であると仮に定義し、この言葉をプロジェクト名に掲げて「イマーシブ」をデザインする人材の育成プログラムを開始しました。

──そして初年度である2025年度のカリキュラム試験実施の核となったのが、12月に行われたハッカソン「Global Field Challenge」ですね。3日間にわたり、5名の講師による講義を経て作品制作を行い、10組で競うハッカソンにおいて優勝したのが、大阪アニメ・声優&eスポーツ専門学校チームです。廣谷ひよりさんはデジタルデザインテクノロジー学科VTuberテクノロジー2年、高澤優斗さんは同学科スーパーゲームクリエイター2年に在籍していますが(*もうひとりのメンバーである同科VTuberテクノロジー3年、柴野庵さんは就職活動のため欠席)、そもそも、どのような分野への興味から大阪アニメ・声優&eスポーツ専門学校に入学しましたか。
高澤優斗(以下、高澤) 僕はゲームが好きで、高校生の頃にゲームは作れるものなんだということを初めて知りました。そのために何を勉強したらいいか調べて、プログラミングを学ぼうと思って入学しました。

廣谷ひより(以下、廣谷) 私はもともと何かを作ることにあまり興味はなかったんですが、エンタメが好きなので、面白いエンタメに触れてみたいと思ってこの専門学校に入りました。2年生になってAdobe Illustratorに初めて触れた頃から、作るのが楽しくなってきて、もともとファンだったアイドルのグッズを作らせていただくことができたんです。
──販売用のグッズですか?
廣谷 そうです。Illustratorを触れるようになってきたので、デザインの先生に何か仕事をやらせて欲しいと頼んだら、たまたまそのアイドルのグッズを作るコンペがあるから、そこに応募したらいいと教えてもらったんですね。そうしたら、ありがたいことに選んでいただいて採用されました。

──すごいです、いきなりの成功体験。では、「Immersive Media Lab++」のハッカソンにはどのような経緯で参加したのですか。
高澤 僕はもともとイマーシブコンテンツの制作にすごく関心を持っていたわけではなかったのですが、2年生になってから、「なんでもチャレンジする」「積極的にプロジェクトに参加する」という抱負を立てたんですね。それで、このハッカソンに参加するチームを募集するという情報が学校で発表されたとき、学科主任の田岡模薫先生に参加したいと相談しました。自信はなかったんですけど、「僕でもできますかねえ」みたいな感じで。
廣谷 その次の日に、私が生成AIのゼミを受けるために東京に向かう新幹線で田岡先生と一緒になって、先生から「優斗がハッカソンに参加したいけど、0から1を作るようなプロジェクトができるか自信がない」みたいなことを言っていると聞きました。私はさっきお話ししたアイドルのグッズデザインが通ったあたりから少し自信がついてきて、どんどんいろいろなことをやっていきたい、何かの企画を立てたいという気持ちになっていたので、「じゃあ私が参加したい」と伝えました。「私が優斗の自信を作ります」って(笑)。
でもチームは3人だからあとひとり足りない。企画は私、VRは優斗、もうひとり3Dモデラーが必要だったので、私たちふたりの共通の知り合いで、コミュニケーション能力も高い人ということで、1学年上の柴野庵さんにすぐ「アメリカに行きたくないですか?」ってメッセージを送ったんです(笑)。それで3人での参加が決まりました。
──全10チームのうち、ほかの9チームはすべて学校名に「テクノロジー」がついた、テック系の分野をメインにしている学校からの参加だと聞きました。
廣谷 そうなんです。うちらだけ「ノー・テック」だけど、ノー・テックで勝てたらかっこよくない?というのも動機になっていました。
──ハッカソンの開催は3日間。講義を受けて技術的なことを学んだあとに作品のプレゼンを行い、実際に作った作品を発表して優勝したわけですが、制作はどのようなテーマのもとで行われたのでしょうか。
Discont 今回のお題は、幅12メートルのLEDスクリーンと、VRゴーグルで体験できるApple Vision Proを用いた3D映像を組み合わせ、「日常と虚構の境界線」をテーマとする作品を皆さんに作っていただく、というものでした。
──廣谷さん、高澤さん、柴野さんの3人が発表した作品のタイトルは《エモガチャ》。作品のコンセプトを教えてください。
廣谷 コンセプトは「エモい体験」です。「エモい」という感情を分析して、体験として再構築した作品です。「エモい」というのは言葉で説明できる感情ではなく、体験することで初めて実感できるものだと考えているので、エモい空間を人工的に作り、体験を共有できるのではないかと考えました。そこで選んだモチーフが、ガチャガチャです。「エモい」は自分で意図して生み出せず、状況やタイミングによって偶然生まれる感情だと思うので、自分で結果を選べず、何が出るかわからないガチャガチャによって、その感情の生まれ方を再現しようと試みました。

高澤 実際にハッカソンでは8時間ぐらいしか制作時間がなかったので、ガチャガチャの複雑な構造を作ることは難しく、途中でガチャガチャを回すのではなく、ボタンを押すかたちにするなどの変更もありました。作品ではVRの制作にもよりこだわりました。季節を春に想定して、桜が周りに咲き、電車が横切る風景をLEDの映像とVRを組み合わせて描いたのですが、ただ映像が映るだけでは現実世界の桜の風景に負けてしまうので、桜の花びらが下から上へと舞っていくような、現実ではあり得ない光景をVRで表現しました。制作には3Dゲーム制作エンジンのUnityを使いました。
廣谷 どんな景色にしたらいいかと試行錯誤をしていたとき、最初のイメージよりももっと現実の風景が見えないほうがいいんじゃないかと学校の先生からのフィードバックをいただいたんです。それなら、鑑賞者が球体の中に入り、視野が丸ごとその球体に覆われてしまうような仕組みがいいのではないかと考え、限られた時間でしたが、優斗と庵さんと必死にやりとりを続けました。

──球体によって、現実から虚構へとより没入していくようなVR体験が生まれるということですね。
廣谷 「エモい」というコンセプトをキープしながら、シチュエーションをどう強化するかと考えたときに、球体の空間に入り込むようなイメージが描ければ、そこに没入感が生まれるのではないか、という発想が出てきたんです。
高澤 どうしたら没入感が高まるか、どのようにLEDと違和感なく組み合わせられるか、というのは難しかったですね。
──根を詰めての8時間の制作だったと思うのですが、それまでに学んできたことと、ハッカソン中に学んだことの両方を活かして制作したのですね。
高澤 僕は普段ゲームを作るのに「C#」という言語を使っているのですが、今回はそれが使えず、「Visual Scripting」という言語に初めて挑戦しました。それを覚えるのは大変でしたね。Apple Vision Proの映像で動きを表現できたときはすごく嬉しかったですし、それを積み重ねて没入体験を生み出せれば「エモい」を表現できるのだと実感できました。
Discont そもそもLEDスクリーンで2次元の映像を描き、Apple Vision Proで3次元のイマーシブ体験を生み出す、という表現の両立はすごく難しい課題なので、それを参加者たちが実現してくれたことには驚きました。相当難易度の高いハッカソンだったと思うので。
廣谷 本当に泣きそうでした(笑)。

──Discontさんは審査員として、プレゼンテーションをどう評価しましたか。
Discont 実際に制作中もわからないことがあれば質問などを我々に投げかけてくれましたし、プレゼンテーションもすごく熱意を持って行ってくれました。自分はそこまで熱意のある学生ではなかったので、日本の将来に期待が持てるなと思いました(笑)。
廣谷 とにかく熱意を、と思っていました。実際にほかのチームの作品を見たらすごくクオリティが高いし、自分たちがどうやって勝てるかとなったら気持ちを込めるしかないと思ったので。優勝できたときは本当に信じられませんでした。熱意を持ってプレゼンできましたし、テクニカルサポートの方々にもたくさん相談していたので、「審査員賞くらいはもらえるかな」とは思っていたんですが(笑)。
高澤 発表で呼ばれたときは本当に驚きましたけど、嬉しかったです。まさかアメリカに行けると思っていませんでしたし。また、いままでは自信がなくて自分の意見を言うことが苦手だったのですが、今回の経験で意見を言うことの大切さを感じました。
──アメリカ視察はどのような場所に行ったのですか。
Discont まず、マサチューセッツ工科大学(MIT)で行われている「リアリティ・ハック(Reality Hack)」という世界最大級のXRハッカソンを見学しました。世界中から学生が集まるハッカソンなんですが、アメリカから169人、アジアからも、中国からは42人、インドや韓国からも大勢が参加していて、台湾からも6人もいるのに、日本人はたった1人しか参加していないんですね。文化庁もグローバルなクリエイターを日本から輩出したいと考えていますが、僕らも海外にどんどん出て行きたいと思っているので、学生にはこういった場所を見学してもらって、次年度以降はうちのプログラムからも参加したいと考えています。
廣谷 もう会場全体の熱量がすごいんです。学生からプロ、15歳の女の子までが参加していたのですが、熱量とポジティブさがありました。誰もが本気で挑戦することが当たり前、という空気感があって、頑張りたくなる環境だと本当に感じました。来て良かったという気持ちが高まって、プログラムのスタッフの方の前で号泣してしまいました(笑)。参加者と積極的に英語でコミュニケーションが取れたのも嬉しかったですし、いまも参加していたインドの女の子と連絡をとっていて、それこそ「日本の桜はどう?」とメッセージもらったり、私が作ったデザインを見せて感想送ってもらったり、大きな財産を手に入れられたと思っています。

高澤 僕も参加者の皆さんの熱意をすごく感じました。いろいろな国の人がいて、それぞれプログラマーだったり、企画を考えるのが得意な人だったり、CGや音楽のクリエイターだったり、適材適所にメンバーがその場でチームを組んで何かを作っていくというのがすごく面白いと思いました。
Discont あとは、ラスベガスの球体型シアターであるSphereと、ロサンゼルスのCosmという最先端のイマーシブエンターテインメント施設も行ったね。
高澤 僕はとくにSphereに感動しました。そこで映画『オズの魔法使い』を見たんですけど、本当に楽しめたんです。見ているだけなのに身体全体での体験になっているというか。僕はもともとゲームが好きで、ゲームを作りたいという気持ちはいまもありますが、それだけではなく作りたいもののイメージが広がりました。

──ハッカソンからアメリカ視察を経て、年度の最後には成果発表展で再びピッチコンテストが行われるわけですね。
Discont 「Global Field Challenge」のハッカソンは3日間と本当に短い期間だったので、それから1ヶ月くらいのブラッシュアップ期間を設けて、再びピッチコンテストを行います。自分たちは、ハッカソンを行い、その後のアメリカ視察があって、ハッカソンで発表した作品のブラッシュアップをするまでのプロセスを含めて、「Immersive Media Lab++」のプロトタイピングだと思っているので、参加者もそうやってコンセプトがより固まっていくのではいかと期待しています。
──おふたりはハッカソン以降のブラッシュアップ期間で、「エモい」の理解度が深まっていきましたか。
廣谷 3日間のハッカソンでは「エモい」を定義づけられるまでには至らなかったので、それをブラッシュアップするために、「エモい」という言葉の分析から始めました。エモは、単一の感情ではなくて、複数の感情が重なり合って生まれる感情だと思うんです。たとえば、布団の中でバレないようにゲームしたことありますか? それって、いま思い返すとすごくエモいと思うんです。楽しいとか、めっちゃ親を警戒してるとか、そういった要素が絡み合って、思い返すとそこには懐かしさもあって。そのような「エモい」をどう生み出すか、というのはハッカソンで作った作品とは大きく違うものになっていると思います。
高澤 桜というモチーフから、いろいろと思い浮かぶんですよね。卒業式や入学式などのイベントとも結びつきますし、そこには寂しさだったり、次のステップに進める楽しさだったり、様々な感情が漠然と浮かぶはずなので、それが「エモい」につながるのではないかと考えました。

──今回のプログラムに参加したことで、将来の展望などは広がりましたか。
廣谷 まだ漠然とはしていますが、今回参加して、「いまからのこと」に携わりたい、という思いはすごく強くなりました。手探りでいろいろと試しましたが、その大変さも楽しかったですし、自分の力になることを実感できたので、まだ具体的には固まっていないけれど、自分で動いて何かをやりたいと思っています。やっぱりエンタメが好きなので、そこで何かを切り開いていけることに関わっていきたいですね。
高澤 僕はずっとゲームプログラマーになりたいと思っていたのですが、そもそも自分は人を楽しませることが好きなので、Sphereで感動したことで作りたいものの幅が広がりました。身体を使って体験できるものにもチャレンジしたいですし、もっとイマーシブを追求したいとも思っています。
──Discontさんは今回のプロセスを通して、イマーシブとはなんなのか、あるいは、その可能性について考える機会も多かったのではないかと想像します。初年度を振り返っていかがですか。
Discont 参加した学生さんたちと話す機会も多かったのですが、「イマーシブとは何か」と聞くと、結構皆さん、的確に答えてくれるんですよ。作品と参加者の境界がなくなる、環境と自分が同一化する、という意味合いがあると思うので、VRに限らず、イマーシブな表現は様々な分野で行えると考えています。僕らとしては、参加した学生の皆さんにVRの世界に必ず行ってほしいと思っているわけではなく、ここでイマーシブというものを柔軟に学んで、その経験を活かして未知の領域と向き合い、そこでもがけるような人材を輩出することを目指しています。そういった意味でも初年度は無事にやり遂げられたのではないかと感じています。

*1──文化庁の補助金により「独立行政法人日本芸術文化振興会」内に設置された「文化芸術活動基盤強化基金」による3年間の助成金を獲得。