会場風景
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彫刻家・国松希根太の美術館初個展「国松希根太 連鎖する息吹」が、十和田市現代美術館で開催中。会期は2026年5月10日まで。
国松希根太は1977年北海道生まれ。多摩美術大学美術学部彫刻科を卒業後、2002年より北海道白老町にある飛生アートコミュニティーを拠点に制作活動を行っている。国立アイヌ民族博物館学芸主査の立石信一とともに展開するAyoro Laboratory(2015〜)や、飛生アートコミュニティーで結成されたアーティスト・コレクティヴTHE SNOWFLAKES(2020〜)の一員としても活動する。
「Expo2025 大阪・関西万博」の会場に展示された大型作品《WORMHOLE》でも注目を集める国松だが、美術館での本格的な個展は今回が初めてとなる。本展では代表的なシリーズに加え、青森県の木を用いた滞在制作作品、さらには祖父である画家・国松登、今年3月に逝去した彫刻家の父・国松明日香の作品も展示する。

最初の展示室に足を踏み入れると、大きな木の存在感に圧倒される。空洞や虫穴、瘤といった「傷跡」をあえて残した彫刻作品が立ち並ぶ空間は、どこか神秘的な森のようでもある。長い年月のなかで歪み、うねり、瘤を生み、穴が空き、腐食が進んだ木々。生と死が同居するかのような凄みさえ感じられる。

国松は日頃から自然のなかを歩き、風景から得たインスピレーションを抽象彫刻へと昇華させてきた。素材となる木は材木屋で探すことが多かったというが、今年、転機が訪れた。「大阪・関西万博」の作品制作にあたり、初めて生きている巨木を自ら伐採するという経験をしたのだ。
「その木はもしかしたらそのまま置いておけばあと100年も生きたかもしれませんが、その命を断って作るという経験をし、改めて自分のなかで喪失感を覚えました」

長年生きてきた木は、自分よりもはるかに長くその土地に根を下ろし、立ち続けている。空洞があり、虫に食われ、瘤ができていても、倒れずに立ち続けている。そうした姿に、国松は森の循環を見るという。「WORMHOLE」シリーズには、そうした木の表情があえて残されている。国松はこれらの木が刻んできた歴史と向き合いながら、ときには大胆にチェーンソーや火を入れ、ときにはその形状を生かしながら作品を生み出していく。


「WORMHOLE」というシリーズ名は、虫が木に開けた穴を意味する英語であると同時に、時空を超えてワープするトンネルを指す宇宙物理学の概念でもある。作品の表面を走っている無数の小さな穴を、異次元へとつながる入り口としてとらえ直す。また、長く生きてきた巨木にはほかの木とは異なる「オーラ」のようなものがあると感じており、その存在感を作品にもまとわせることを目指しているという。


「WORMHOLE」の空間を抜けると、廊下に小さな彫刻が並んでいる。青森ヒバで制作された7点の作品からなる「7 sculpture sketches」シリーズだ。国松が初めて十和田を訪れた際、奥入瀬渓流を上流に向かって歩きながら出会った石や岩壁などの形態を、チェーンソーとバーナーでスケッチするかのように制作したものだという。
「最初にここを訪れたときに、奥入瀬の渓流や十和田湖を巡りました。奥入瀬渓流を歩き、川の横を通りながら目に見えてきた地形が頭に残っていて、それを北海道に戻って、ヒバの木を持ち帰って作った作品です」

写真を見てそのまま作るのではなく、作りながらそのときの風景を思い出す作業だと国松は語る。記憶のなかにある風景を、手を動かしながらかたちにしていく。

展示にも工夫がある。注意深く見ると、作品を載せた台の高さが奥に向かってわずかに上がっていることに気づく。奥入瀬渓流を上流に向かって歩いた体験の再現だ。

展示室の一角には、国松のルーツをたどる小部屋がある。祖父・国松登の絵画《星月夜》(1992)、父・国松明日香の彫刻《雲の夢A》(2024)、そして希根太が木を素材にする契機となった《シズクノオドリ》(2003)が並ぶ。3人はいずれも北海道を代表する芸術家であり、素材や作風は異なるものの、北の自然や風土に寄り添い、抽象的かつ詩的に表現してきた点で共通している。

祖父と父の作品は、いずれも晩年のものを選んだという。国松登の絵画は、雪原に佇む象の体のなかに星や月の風景が透けて見える幻想的な一枚。国松明日香は80〜90年代に大型モニュメントを手がけていたが、後年は自らの手で鉄を曲げ、切り、溶接するスタイルへと移行しており、展示作はその時期の作品だ。
この2点を選んだ理由について、「美術館から借りるかたちではなく、自分の実家にある作品から選びました。とくに父は今年亡くなったので、昔の作品を出すというよりはいちばん新しい作品を出したかった。祖父の象の絵は自分自身が好きだったというのもあります」と語る。

最後の展示室には、9月に約2週間の滞在制作で生まれた新作が並ぶ。中央に据えられた大型彫刻《WORMHOLE》(2025)は、樹齢150年以上の奥入瀬のブナを素材としている。第1室の「WORMHOLE」シリーズが空洞を特徴とするのに対し、こちらは一本の木の重量感と存在感がしっかりと伝わってくる。
丸くえぐれた上部の形状は、十和田湖のカルデラをイメージしたもの。十和田湖は火山爆発でできた二重カルデラで、日本で3番目に深い湖だ。その奥底に潜む穴もまた、「WORMHOLE」と言えるのかもしれない。


壁面には「HORIZON」シリーズの新作が掛かる。水平線や地平線をモチーフに制作してきたシリーズだが、十和田での滞在を経て新たな展開を見せた。「昔噴火して堆積してきた火山灰や溶岩を見たときに、時間を感じる境界を表したいと思い、『HORIZON』の新しいかたちを作りました」

画面には白老の土も混ぜ込まれており、よく見ると木の板の木目が透けて見える。北海道と青森、ふたつの土地の素材が一枚の絵画のなかで重なり合う。

美術館併設のカフェ&ショップでは、国松の活動拠点である飛生アートコミュニティーの紹介展示も行われている。

飛生アートコミュニティーは、1986年に廃校となった旧飛生小学校の校舎と教員住宅を借り、父・明日香を含む6人の芸術家の共同アトリエとして始まった。2002年に希根太が加入して以降は設立メンバーの子供たちを中心に第二世代へと移行し、2009年からは「飛生芸術祭」、2011年からは「飛生の森づくりプロジェクト」や「トビウキャンプ」を開催。現在は森づくりと芸術祭を軸に活動を続けており、奈良美智も「飛生芸術祭」に参加している。2026年には設立40周年を迎える予定だ。

北海道と青森、ふたつの土地の記憶が交差する本展。木に刻まれた時間の痕跡と、3代にわたる表現の系譜をたどりに、足を運んでみてはいかがだろうか。

灰咲光那(編集部)
灰咲光那(編集部)