公開日:2026年1月15日

作ることが楽しかった、あの頃へ還る ──「リサ・ラーソンの作り方」展(PLAY! MUSEUM)をレポート

スウェーデンの陶芸家、リサ・ラーソンの個展が東京・立川のPLAY! MUSEUMで開催中。

リサ・ラーソンが実際に使っていた筆立て

リサ・ラーソンを通して作ることの楽しさを思い出す

東京・立川のPLAY! MUSEUMで、「リサ・ラーソンの作り方」展が開催されている。会期は2月23日まで。本展は、スウェーデンを代表する陶芸家であるリサ・ラーソンの創作活動を紹介しながら、陶器やプロダクトが生み出される背景や制作の工程に光を当てる。

展示会風景。左から、《MOA》(2016)、《MOA mini》(2017)
会場風景。左から《Moses》(1980)、《FOX mini》(1977-1983)

リサ・ラーソンは、1950年代から創作活動を始め、動物をモチーフにした愛らしい陶器を中心に、世界各地で人々の暮らしを彩ってきた作家だ。日本では、陶器の作品にとどまらず、スケッチから生まれた絵本のキャラクター「マイキー」や、彼女自身のライフスタイルにも関心が集まり、幅広い世代に支持されてきた。2024年に92歳で亡くなったいまも、その作品は変わらず多くの人に親しまれている。

原型《リサ猫》
制作途中の猿とドラゴン
様々な動物のスケッチ
猫のスケッチ

これまで日本で行われてきたリサ・ラーソン展の多くは、作家性や作品性を軸に、リサ自身の手で作られた一点物の作品や、代表的なプロダクトを紹介する構成が主流だった。それに対し本展では、リサが制作した原型作品を出発点に、工房で職人たちがライオンや猫といったおなじみの作品を作り上げていく、その一連の制作工程に焦点を当てている。量産制作の工程や、そこに関わる国内外の職人の仕事ぶりが、資料や映像、写真を通して紹介される点も特徴だ。

展示会風景

展示は3つのパートで構成されている。制作工程を扱う第1部、ワークショップを行う第2部に続き、第3部では、陶器の扱い方やその後についての事例を紹介する。展示室のなかで鑑賞と制作が並行して行われる構成は、美術館の展覧会としては珍しい。リサ・ラーソンのものづくりの現場をたどりながら、子供から大人まで、来場者それぞれが創作に触れることのできる場が用意されている。

ものづくりと日本を愛したリサ・ラーソン

リサ・ラーソンは、動物をモチーフにした愛らしい陶器で広く知られるいっぽうで、極めて現実的で誠実な作り手でもあった。彼女は、一点物の作品を制作するアーティストであると同時に、スウェーデンの陶磁器メーカーであるグスタフスベリ社の専属デザイナーとして長年活動し、量産されるプロダクトのデザインにも深く関わってきた。

「大量生産であっても質を落とさないこと」その信念のもと、リサは自ら原型を作り、工房の職人たちと対話を重ねながら工程を共有していった。職人への敬意を欠かさず、試行錯誤の時間を惜しまなかった姿勢は、彼女のものづくりを支える重要な要素だったと言えるだろう。可愛らしい造形の奥には、真面目さや計画性、そして妥協しない姿勢がある。本展で紹介される映像や資料からは、朗らかで気さくな表情と、制作に向き合う際の厳しい眼差しが同時に浮かび上がってくる。

プロダクトの制作工程サンプル

リサはまた、若い頃から日本の芸術やものづくりに関心を寄せ、とりわけ民藝に強い興味を持っていた。1970年にはスウェーデンのデザイナー代表団の一員として初来日し、大阪万博を訪れるとともに、濱田庄司をはじめとする日本の陶芸家とも出会っている。当時の日本では、リサの作品に触れる機会は限られていたが、その後少しずつ紹介が進み、現在では陶器のプロダクトにとどまらず、スケッチから生まれたキャラクター「マイキー」や、彼女自身のライフスタイルにまで関心が広がっている。

会場風景
会場風景

暮らしのなかで使われ、手に触れられ、日常に溶け込むものづくり。そのあり方は、日本の民藝が大切にしてきた精神をも感じる。本展であらためて伝わってくるのは、リサ・ラーソンのものづくりが、国や時代を越えて受け入れられてきた理由のひとつだ。

「見る・知る・作る」がつながる展示

展覧会の第1部は、「リサ・ラーソンのものづくりを見る・知る」パートだ。ここでは、プロダクトがどのような工程を経て完成するのかが、実際の道具や資料、映像を通して紹介されている。原型制作から型取り、成形、乾燥、素焼き、彩色、釉薬、焼成、そして出荷へ。完成品だけを見ていては気づきにくい、長く複雑な時間が可視化されていく。

また、会場ではリサ自身が使っていた道具類や釉薬の見本、日本初公開となる制作風景の映像も展示されている。さらに印象的なのが、写真家の木寺紀雄が長年撮り続けてきた写真の数々。サマーハウスで過ごす姿、作業する手元、何気ない日常の表情。写真は多くを語らず、しかし確かに、リサの人柄と空気感を伝えてくる。

実際、家に飾られていたという釉薬のカラーパレット
原型

内覧会では、写真家の木寺紀雄によるインタビューの時間が設けられた。木寺は、何度もリサ・ラーソンのもとを訪ね、撮影を重ねるなかで出会った彼女について、「とても気さくで、訪ねていくといつも自然に迎え入れてくれる人だった」と振り返る。いっぽうで制作については、「かわいいものを作っているけれど、作るときは驚くほど真面目で、計画的だった」とも語り、その切り替えの鮮やかさが印象に残っているという。

内覧会で行われたカメラマン木寺紀雄(左)と本ミュージアムのプロデューサー草刈大介のトークイベント

第1部でリサのものづくりに触れたあと、来場者は第2部で実際に手を動かす。マイキーのイラストに自由に模様を描くワークショップ、ボトルのサンドアート、日本の窯元が制作した「リサ猫」の陶器への絵付けなど、作ることの楽しさを改めて思いださせてくれるワークショップが用意されている。描いた作品は持ち帰ることもでき、展示の一部として会場に残すこともできる。作ることが、鑑賞の延長として自然に組み込まれている点が、この展覧会ならではだ。

展示会風景
模様付けしたリサ猫
マイキーぬり絵
マイキーのサンドアートボトル

展覧会の最後に設けられている第3部「リサ・ラーソンのゆくえ」では、リサの作品を手がかりに、サスティナビリティについて考える展示が行われている。陶器は土から生まれる素材だが、一度焼成されると土に還ることはない。壊れてしまった陶器や、制作の過程で出荷に至らなかったものをどう扱うのか。ここでは、リサ自身が行っていたリユースの例を起点に、金継ぎやアクセサリーへの転用、リサイクル陶土といったいくつかの取り組みが紹介されている。明確な結論を示すのではなく、ものづくりのその先に思いを巡らせる余地を残しながら、展覧会は締めくくられる。

リサが実際に使用していた筆入れ
蚊取り線香の入れ物に変貌した、《象のおやこ》

作ることが楽しかった子供の頃の感覚を呼び戻しつつ、その背後にある誠実で妥協のない仕事。遊び心とプロフェッショナルを兼ね備えたリサ・ラーソンの姿勢が、訪れた人の暮らしのなかで気づきを与えてくれる展示内容だ。

福島 吏直子(編集部)

福島 吏直子(編集部)

「Tokyo Art Beat」編集部所属。編集者・ライター。