会場風景より、Mr.自身が住んでいたような部屋を再現
福岡アジア美術館で、「Mr.の個展:いつかある晴れた日に、きっとまた会えるでしょう。」が4月24日に開幕した。新作を中心とした絵画・立体・映像・インスタレーションなど80点以上を紹介する、日本の美術館では初の大規模個展となる。会期は6月21日まで。

Mr.は、アニメ・マンガ・ゲームといったオタク文化と、元ヤンキーとしてのストリート的な感性を現代アートへと引き込んできたアーティストとして知られる。1996年に村上隆との出会いをきっかけにデビューし、2000年以降は、村上が提唱した「スーパーフラット」の重要な担い手として、その理念をさらに深化させてきた。

作品の核にあるのは、幼少期の家庭環境や学生時代の記憶、ストリートで培った感覚だ。ファストカルチャーとファンシーグッズに埋め尽くされた現代日本の日常風景、ティーンエイジャーの揺れる感情、情報化社会における孤立。Mr.はそれらを作品と通してなど多様な手法で再構築する。日本のポップカルチャーを国際的な現代アートへと接続した表現として、国内外で評価を受けてきた。

会場に入ってまず気づくのは、白い壁がないことだ。壁面全体がプリントワークや作品で覆われ、そこに絵画やオブジェ、立体作品が混在している。商店や飲食店が立ち並ぶ路地のような構造のなかに、漫画・アニメ的なキャラクターや広告的な要素が入り込む。
街や部屋のようなこの空間について「自分の部屋や理想な街というのも確かにそうですが、自分の脳内に近いですかね」とMr.は話す。


鑑賞者は通路を歩きながら、断片的なイメージを次々と目にする。商店の看板、キャラクター、広告的な要素など、見慣れた日本の日常風景が、ここでは別の文脈に置かれている。賑やかに見える空間のなかに、孤独や閉塞感といったテーマが同居しているのがMr.の作品の特徴とも言えるだろう。
別のセクションに進むと、漫画やビールが積み上げられた部屋が現れる。「自分が住んでいたのは、ああいう感じの部屋でしたね。再現してると思います」かつて暮らしていた住環境をそのまま展示空間として作り上げた。

同じ空間には、Mr.が美術専門学校に通っていた学生時代に描いた油絵やデッサンも点在している。アカデミックな表現に疑問を感じながらも手を動かし続けた当時の記録が、新作とともに並ぶ。初期と現在が混在することで、Mr.のキャリアを一望するような体験ができる。

「行ったり来たり、初心に帰るみたいなことも、脳内でつねに行われているんですよ」とMr.は振り返る。個人の記憶に根ざした空間でありながら、現代の消費文化やライフスタイルとも重なる部分がある。鑑賞者は他者の生活のなかに、自分の日常との接点を見つけるはずだ。
「アイデアを思いつくところまでで、なかなかやれていませんでした。今回は、それを一つひとつ具体的に作り上げ、出し切ることを目標にしてきました」とMr.は明かす。出展作品のほとんどは新作で、会場を歩くとその物量と密度が実感できる。

カフカの『変身』を着想源とした作品も、今回初めて『変身』と命名されて展示されている。

「普段から自分の頭のなかでやりたいことが沢山あります。今回の展示では、やると強く決めていたことが結構できたのではないかと思っているんです」とMr.は語る。今回の個展は集大成であるとともに、次への起点にもつながるだろう。