公開日:2026年1月13日

「NAKED meets ガウディ展」(東京・寺田倉庫G1ビル)が開幕。 貴重な資料と体験型展示でたどる、ガウディ建築の思考と構造

東京・寺田倉庫G1でガウディ財団公式の展覧会「NAKED meets ガウディ展」が開催。

サグラダ・ファミリア模型

没後100年の節目に開催されるガウディ展

ガウディ没後100年、そしてサグラダ・ファミリアの中心に位置する「イエスの塔」が完成するという節目にあわせ、アントニ・ガウディの公式展覧会「NAKED meets ガウディ展」が東京・寺田倉庫G1ビルにて開催されている。会期は1月10日から3月15日まで。

ガウディ財団からの正式オファーを受け、空間演出や体験型アートを軸に、アート・テクノロジー・文化体験を融合させた表現を行ってきたクリエイティブカンパニー、NAKEDが世界で初めて同財団と公式ライセンス契約を結んだ協働プロジェクトとなる本展の会場には、サグラダ・ファミリアのオリジナル図面をはじめ、ガウディの手記や直筆の書簡、制作に用いていた道具など、学術的にも価値の高い未公開資料が一堂に集められた。これほど多くの財団所蔵資料が同時に展示されるのは世界初となる。学術と体験が交差する、新しい切り口の展覧会となった。

会場入り口
プロジェクションマッピングエリア風景
会場風景

天才建築家、アントニ・ガウディ

世界的な建築家として知られる、アントニ・ガウディは、1852年にスペイン・カタルーニャ地方レウスで生まれた。バルセロナ建築学校で学び、1878年に独立。実業家エウセビ・グエルとの協働を通じて、グエル公園、カサ・バトリョ、カサ・ミラなど数々の名作を生み出した。生涯の後半はサグラダ・ファミリアに心血を注ぎ、1926年、バルセロナで電車の事故により没した。

彼が生涯を通じて大切にしてきたのは、「独創性とは原点に戻ることである」という思想だった。ガウディにとっての原点は、生命にかたちを与える自然の法則で、自然と人間が本来持っている調和のあり方だ。建築を通して、物質と精神、自然と人間の対話を表現すること。それが彼の創造の核にあった。

カサ・ミラ模型

ガウディは幼少期、銅細工師である父が金属を打ち出す姿を間近で見て育った。叩くことで、平らな金属が立体へと変わっていく──その光景が、のちに彼の「空間を見る力」を育んだと言われている。また体が弱かったこともあり、彼はしばしばじっと動かずに、光の入り方や空間の広がり、細部のかたちを観察する時間を過ごしていた。

自宅の周囲や、家族が農家を所有していたリウドムスの丘で目にした自然、樹木の枝ぶりや葉を透過する光、山の稜線は、装飾のモチーフではなく、構造そのものの手本であった。ガウディは、自然のなかにすでに建築の論理が存在していることを直感的に理解していた。

7つのエリアでガウディの魅力に迫る

展示の導入では、「創造とは何か」という問いが投げかけられる。ガウディの言葉「独創性とは、原点に戻ることである」を手がかりに、創造をたんなる“新しさ”ではなく、自然や本質へ立ち返る行為としてとらえ直していく。もし前世紀が加速と分断の時代だったとするなら、これからの世紀は再生やつながり、そして思いやりによって導かれるべきではないか──そんな視点が、展示全体の出発点となっている。

続くセクションでは、ガウディが自然のなかで見つめてきたかたちや構造が、どのように建築の発想へと結びついていったのかに焦点が当てられる。ここで語られる「記憶」とは、感情的な回想ではない。自然を観察し、その仕組みを理解し続けてきた経験が、後の建築を支える思考の土台となっていたことが示される。

展示を通して見えてくるのは、自然界の形態や原理が、ガウディの建築のなかで具体的な構造や空間へと読み替えられていくプロセスだ。樹木の枝分かれは荷重を分散する柱の構造へ、植物の成長の方向性は光を導く空間設計へ、穀物や球根の形態は象徴性と機能性を併せ持つ建築要素へと変換されていった。その発想の源が、つねに自然にあったことが、視覚的にもわかりやすく伝えられている。

キノコを思わせるグエル公園の煙突、小麦をモチーフにしたサグラダ・ファミリアの塔、ニンニクのかたちを連想させるカサ・バトリョの換気塔、糸杉の円錐形を抽象化したベリェスグアルドの塔、プラタナスをモデルにした樹木状の柱、蜂の巣構造を取り入れたカサ・カルベットの覗き穴。これらはいずれも自然の姿をなぞった装飾ではなく、構造や機能と深く結びついた必然のかたちだった。ガウディにとって自然とは、感覚的に愛でる対象だけではなく、建築の論理を学ぶための実践的なモデルであった。

ガウディがデザインした様々な塔
蜂の巣構造を取り入れたカサ・カルベットの覗き穴の模型

16歳でバルセロナに移り住んだガウディが目にしたのは、急速に姿を変えていく都市の風景だった。アシャンプラ計画による都市拡張や新たな芸術思想の流入が進むいっぽうで、建築のあり方にはまだ明確な答えが見えない、過渡期ならではの空気が漂っていた。

ガウディはそうした刺激を無差別に受け入れたわけではない。書物や古代文化、幾何学、自然、さらには東洋や北アフリカへの想像上の旅など、異なる時代や地域に根を持つ要素を引き寄せながら、それらを自分なりに組み替え、問い直していった。ただ流行に従うだけでなく、都市の変化を試金石として、自身の建築の方向性を探っていた。

展示では、カサ・ビセンス、エル・カプリチョ、グエル邸といった初期作品を手がかりに、そうした模索の過程を辿ることができる。歴史様式を取り込みながら、次第に独自の建築表現へと向かっていくガウディの歩みが、デジタル表現を通して立体的に浮かび上がってくる。

会場風景
会場風景

資料と体験で触れる、ガウディの建築世界

ガウディの思考が、どのようにして具体的なかたちへと変わっていったのかを体感できる「ガウディの工房」では、彼の建築の構造をより深く理解するための様々な仕掛けが用意されている。

ここでガウディが向き合っていたのは、目に見える装飾ではない。重力や張力、バランスといった、自然のなかにすでに存在する力だった。チェーンや重り、粘土、光。それらは素材として扱われたのではなく、構造を見つけ出すための実験道具として使われていた。

紙の上だけでは計算しきれない構造に対して、ガウディは実験によって答えを導き出した。その代表的な方法が、紐を用いた「ポリフニキュラー模型」である。天井から紐を吊るし、その先に重りを付けると、重力に従って自然に曲線が現れる。そのかたちを上下反転させることで、建築における合理的なアーチや柱の配置が導き出される。

会場には、こうした考え方を実際に体験できるアナログのポリフニキュラー模型のブースが設けられており、来場者はチェーンと重りを扱いながら、力の流れや構造が生まれる必然性を自分の手で確かめることができる。さらに、デジタルスクリーンを用いた体験では、ガウディの構造的な発想を手がかりに、自分なりの“ガウディ的建築”を組み立てることも可能だ。アナログな実験とデジタルなシミュレーションの両方を通して、観察と実験に支えられたガウディの設計プロセスを、身体感覚として理解できる展示となっている。

ガウディが行っていた"“重力の実感”を実際に体験することができる
スクリーンを使って自分好みのガウディ建築を建てることができる

続く展示では、身近な造形から建築全体に至るまで、ガウディの建築が持つ、どこか生きているように感じられる感覚に触れることができる。彼の建築は、たんなる構造物ではなく、自然と呼応しながら空間そのものが息づいているかのような印象を与える。その発想は、建築全体の構成だけでなく、日常的に触れる細部にまで一貫して表れている。

曲線を描く有機的なドアや、身体の動きを意識してデザインされたダイニングルームのベンチは、その代表的な例だ。見た目の美しさにとどまらず、人が触れ、座り、動くことを前提にかたちづくられており、そこには人の感覚や動作に寄り添うガウディならではの設計思想が感じ取れる。

有機的なデザインを取り入れた数々の作品
ダイニングルームのベンチ

自然や生命に向けられた彼のまなざし、本質を求め続けた姿勢が綴られた、今回初展示となる手記も必見だ。また、グエル公園を象徴する存在であるエル・ドラクは、自分好みの色にカスタマイズする体験も楽しめる。

ガウディの手記
様々な色に変化するエル・ドラク

会場では、壁や柱一面に広がるプロジェクションマッピングによって、サグラダ・ファミリアに刻まれてきた時間の流れが、光の演出として立体的に描き出される。ひとりの建築家の構想から始まり、多くの人々の意志と技に支えられながら、いまもなお造り続けられている建築であることが伝わってくる。

プロジェクションマッピング


自然を師とし、観察と実験を重ねながら独自の建築世界を築いてきたガウディ。本展では、文章や資料だけでなく、映像、体験を通して、その発想の源に触れることができる。彼の集大成であるサグラダ・ファミリアは、2026年6月に完成を予定している。完成を前に、ガウディの建築思想や魅力を改めて体感できる機会として、本展を訪れてみてはいかがだろうか。建築を「見る」だけでなく、「感じる」体験を通して、本展ではその魅力がより立体的に伝わってくるはずだ。

福島 吏直子(編集部)

福島 吏直子(編集部)

「Tokyo Art Beat」編集部所属。編集者・ライター。