公開日:2026年3月21日

光と装飾が織りなす美の世界へ。 「ルネ・ラリック展 -ガレ、ドームから続く華麗なるフランスの装飾美術-」(金沢・国立工芸館)をレポート

アール・ヌーヴォーからアール・デコへ。ルネ・ラリックの作品を通して時代をたどる。

会場風景

フランス装飾美術の流れを体感する展覧会が開催中

金沢・国立工芸館では現在、「ルネ・ラリック展 ガレ・ドームから続く華麗なるフランスの装飾技術」が開催されている。会期は2026年6月14日まで。

会場風景

本展は、19世紀末から20世紀にかけてフランスで発展した装飾美術の流れを背景に、ルネ・ラリックの作品を中心に紹介する内容となっている。国立工芸館の所蔵品に加え、国立西洋美術館や個人コレクションの作品を含む約110点が並び、時代の変化とともに移り変わる装飾美術の流れをたどることができる。

ルネ・ラリック 花瓶 カメオ 1923
展覧会風景より、左はアルフォンス・ミュシャ サラ・ベルナール アメリカン・ツアー 1895

装飾美術を生んだ時代、そしてアンバサダーに就任した篠原ともえの視点

19世紀のヨーロッパでは、産業革命によって大量生産が進み、生活は大きく変化した。いっぽうで、手仕事の価値が見直され、工芸や装飾といった分野への関心が高まっていく。さらに、日本の開国によって浮世絵や工芸品が欧米に紹介され、「ジャポニスム」と呼ばれる動きが広がった。自然をモチーフにした表現や装飾性の高いデザインは、アール・ヌーヴォーの成立にも影響を与えている。こうした流れのなかで生まれた装飾美術の魅力を、実際の作品を通して体感できるのが本展である。

アンバサダーを務める篠原ともえは、「石川県はプライベートでもよく訪れる場所で、美術館巡りも楽しみのひとつ」と語る。学生時代にアール・ヌーヴォーからアール・デコへの流れを学んだ経験を持つ。作品の見方については、「見る側としてだけでなく、作り手の視点でも作品を見るようにしています。じっくり向き合っていると、作家がどのようにかたちにしていったのかが伝わってくる感覚があります」と自身の美術館の見方も教えてくれた。

篠原ともえ

この日、篠原が着用していたドレスは、ラリックの花瓶《オラン》(1927)から着想を得て制作されたものだという。「光によって表情が変わる作品なので、その変化を布で表現できたらと考えました」と話し、素材には石川県で織られた生地を用いている。

篠原ともえ

ガレからラリックへ、作品でたどる装飾美術

本展の前半では、エミール・ガレとドーム兄弟の作品を通して、装飾美術の出発点をたどることができる。エミール・ガレによる《オダマキ文花瓶》(1898〜1904)は、植物の姿をガラスで表現した作品だ。透明なガラスに色ガラスを重ねることで、花びらのやわらかな質感や色の移ろいが丁寧に表されている。実際に目にすると、かたちだけでなく、植物が持つはかなさまで写し取ろうとしていたことに気づかされる。

エミール・ガレ オダマキ文花瓶 1898〜1904

いっぽう、ドーム兄弟が手がけた《カシワ文花瓶》(1906)では、色ガラスの層を削り出す技法が用いられている。葉のかたちが浮かび上がり、まるで逆光の木々のあいだから柔らかな光が降り注ぐようだ。

ドーム兄弟 カシワ文花瓶 1906

アルフォンス・ミュシャの《サラ・ベルナール》(1896)は、ミュシャの代表作に多く用いられるフランスの人気舞台女優サラ・ベルナールを描いた作品。サラを女神のように描いたこの作品は、アール・ヌーヴォーらしい自然のモチーフとともに描き出されており、当時の芸術作品の方向性が伝わってくる。

左から、アルフォンス・ミュシャ 民衆美術協会 1897、アルフォンス・ミュシャ サラ・ベルナール 1896

2階に上がると、ルネ・ラリックの作品が登場する。ジュエリー作家として出発したラリックは、ガラスや七宝といった素材を取り入れながら、表現の幅を広げていった。

左から、ルネ・ラリック 立像 スザンヌ 1925、ルネ・ラリック 立像 タイス 1925

《ブローチ 翼のある風の精》(1898)では、蝶の羽のような翼と女性像が組み、風の精があしらわれている。繊細な装飾と軽やかな造形が重なり合い、美しいブローチに仕上がった。

ルネ・ラリック ブローチ 翼のある風の精 1989

ラリックは香水瓶のデザイナーとしても多くの作品を残している。なかでも注目したいのが、ヨーロッパでは珍しいセミをデザインに落とし込んだ《香水瓶 4匹のセミ》(1910)だ。四隅に配置されたセミのモチーフが独特のリズムを生み出し、当時人気を博した。

左から、ルネ・ラリック 香水瓶 4匹のセミ 1910、ルネ・ラリック 香水瓶 アンバー・アンティーク 1910

光とともに変化するラリックの魅力

展示の後半では、アール・デコの時代における作品が並ぶ。装飾的なアール・ヌーヴォー様式から徐々に直線的で整理されたデザインへと変化していく。

展覧会風景より

ピエール・シャローによる書斎机と椅子(1928)は、そうした変化を象徴する存在だ。直線を基調とした構成からは、建築的な発想と機能性を重視する考え方がうかがえる。

ピエール・シャロー 書斎机 椅子 1928

1925年に開催された「現代装飾美術・工業美術国際博覧会(アール・デコ博)」で発表された噴水塔《フランスの水源》を構成する泉の精の一体、《立像 泉の精 タリア》(1924)では、身体に沿って流れる衣の表現が印象に残る。水の動きを思わせる造形の立体感が、光を受けることで立体感が際立ち、素材の魅力が引き出されている。

ルネ・ラリック 立像 泉の精 タリア 1924

そして、《花瓶 オラン》(1927)は、光の当たり方によって色合いが変化するオパルセントガラスを用いた作品だ。角度を変えて見ていくと印象が大きく変わり、ひとつの作品のなかに複数の表情が見える。

展覧会風景より、ルネ・ラリック 花瓶 オラン 1927

本展では、こうした作品の特徴を引き出すように照明が設計されている。光の変化を意識しながら作品と向き合うことで、見る角度によって変わる表情を楽しむことができる。

ルネ・ラリック 花瓶 野ウサギ 1923

素材の選択、モチーフのとらえ方、そして光の扱い。そうした要素が重なり合うことで、ラリックの作品は独自の魅力を生み出してきた。本展ではその背景まで含めて作品を見つめることができる。視点を少し変えるだけで見え方が変わる、その面白さもあわせて味わいたい。

福島 吏直子(編集部)

福島 吏直子(編集部)

「Tokyo Art Beat」編集部所属。編集者・ライター。