リナ・バネルジー 「“You made me leave home...」 エスパス ルイ・ヴィトン東京での展示風景(2026) Photo credits: Jérémie Souteyrat / Louis Vuitton
表参道のエスパス ルイ・ヴィトン東京にて、南アジア系ディアスポラのアーティスト、リナ・バネルジーの個展「“You made me leave home...」が開催される。会期は3月19日から9月13日まで。
本展はフォンダシオン ルイ・ヴィトンの所蔵コレクションを東京、ミュンヘン、ヴェネチア、北京、ソウル、大阪のエスパス ルイ・ヴィトンにて展示する「Hors-les-murs(壁を越えて)」プログラムの一環。同プログラムの10周年およびエスパス ルイ・ヴィトンの設立20周年というふたつの節目を記念する展覧会でもある。
リナ・バネルジーは1963年にインドのコルカタ(旧カルカッタ)に生まれ、英国のロンドン、マンチェスターでの生活を経て7歳で渡米、現在はニューヨークを拠点に活動する。2000年のホイットニー・ビエンナーレへの選出を機に国際的な注目を集め、以来30年近くにわたり米国、欧州、アジアで精力的に作品を発表してきた。

その作品の特徴は、綿糸、ダチョウの卵、羽根、ガラスのシャンデリア、ファウンド・オブジェクトなど、多種多様な素材の組み合わせにある。バネルジー自身が「熱帯地域」と呼ぶグローバル・サウス産の素材——ココナッツパウダーをはじめとする日常的な家庭用品から、テキスタイルに至るまで——を積極的に取り入れ、植民地主義の文化的・物質的な残滓を作品に刻み込む。絵画においては、歴史的なインドの細密画や中国の絹絵、アステカのドローイングなどからも着想を得ており、複数の美術的伝統が作品のなかで交錯する。

社会的な分断や不正義への批評的まなざしを持ちながら、つねにユーモアを湛えているのが、バネルジーの作品の特徴だ。各作品に付された長く詩的な物語のようなタイトルもまた、作品を構成する不可欠な要素となっている。


19点の作品が展示される本展の中心となるのは、フォンダシオン ルイ・ヴィトンが初公開するコレクション作品《In an unnatural storm a world fertile, fragile and desirous, polluted with excess pollination, hungry to seize an untidy commerce also gave an unknowable size to some mongrel possessions, excreted a promiscuous heritage, sprayed her modern love, breathed deeper than any one place arching her back threw new empire, religion, bathed in unseasonable hope to alter what could not be warm》(2008)だ。ジュール・ヴェルヌの『八十日間世界一周』から着想を得た記念碑的なインスタレーションで、天井から吊り下げられたドームとそこから降り注ぐオブジェによって構成される。世界を巡る冒険の旅がもたらす驚異と危うさを表現した本作は、そのコンセプト、構造、色彩や形状といった要素のすべてにおいて、バネルジーの創作活動の核心を象徴する。


本作と並んで展示の方向性を決定付けているのが、近作《Black Noodles》(2023)だ。人毛の国際取引とその政治的背景を主題とした本作は、グローバルな人と物の移動というバネルジーの一貫したテーマを、より現代的かつ具体的な問題として提示する。


さらに本展には新作絵画シリーズも含まれる。1900年以前のインド美術への深い造詣を基盤に、南アジアの素材やモチーフ、図像を融合させ、ヒンドゥー教の女神を想起させる女性像を描いた作品群だ。

ポストコロニアル・フェミニズムのアプローチを取り入れる作家は、多様なサイズ、かたち、色彩を持つ女性像の制作を通じて、文化における想像力を支配する性的な表象から彼女を解放することに一貫して取り組んできた。新作絵画においてもその姿勢は貫かれており、「自己」の多面的で流動的、かつトランスナショナルな性質を映し出す。バネルジーが積み上げてきた、多様で流動的なまなざしの軌跡を、ぜひ自分の目で体感してほしい。

灰咲光那(編集部)
灰咲光那(編集部)