写真家ヨシダナギが写した“渋谷の人”。工事現場の仮囲いが舞台の「BAG@渋谷二丁目ストリートギャラリー」全面オープン

BAG-Brillia Art Gallery-による「サイトスペシフィック・ギャラリー」第1弾。一般公募の幼稚園児から歌手・小林幸子まで、ヨシダナギが撮影した渋谷にゆかりのある人々の姿が壁面を彩る。(撮影:中島良平 [*]は除く)

「BAG@渋谷二丁目ストリートギャラリー」より、中央が渋谷区観光協会観光大使を務める歌手の小林幸子

プロジェクトごとに場所を変え、動くギャラリー

「洗練」と「安心」をブランド理念とする東京建物株式会社のマンションブランド「Brillia(ブリリア)」。同社は2021年から「BAG-Brillia Art Gallery-」を東京・京橋で展開していたが、再開発に伴い同地のギャラリーを終了し、プロジェクトごとに展示場所を変えながら場所の特性に合わせた作品や展示方法を探求する「サイトスペシフィック・ギャラリー」をスタート。その第1弾として、渋谷の工事現場における仮囲いを展覧会場とした「BAG@渋谷二丁目ストリートギャラリー」が、このたび全面オープンした。

東京建物株式会社 取締役 秋田秀士専務執行役員は、次のように話す。

「BAGは京橋のギャラリーを閉じ、ストリートギャラリーとしてプロジェクトごとに場所を変え、動くギャラリーとして展開することになりました。最初の舞台となる渋谷は、多様な価値観、個性が交差する街です。今回のプロジェクトではヒューマニティと多様性をテーマに掲げ、これまで多様な個性に光を当ててきた写真家のヨシダナギさんに制作をお願いしました。

当社では、豊かな暮らしにはアートが不可欠だと考えております。『BAG@渋谷二丁目ストリートギャラリー』の展示が、街を行き交う人々の日常の刺激となり、アートを通じて街の新たな価値を感じていただくきっかけになることを目指しています」

東京建物株式会社 取締役 専務執行役員 住宅事業本部長 秋田秀士
オープニング記者発表会でのクロストークの模様。左から、写真家ヨシダナギ、東京建物株式会社 住宅事業企画部 鹿島康弘、渋谷女子インターナショナルスクール校長/渋谷区観光協会 観光フェロー 赤荻瞳

2025年10月31日にプレオープンした際には、渋谷区観光協会の観光大使を務めるZeebraや、渋谷区出身で渋谷育ち、同じく観光大使の小宮山雄飛、渋谷女子インターナショナルスクール校長で渋谷区観光協会観光フェローの赤荻瞳などを被写体に起用した作品10点を展示。赤荻は、オープニング記者発表会で実施したクロストークで渋谷について次のように語った。

「街だけではなく、人や活動、コミュニティも変化し続ける街だと感じます。ヨシダナギさんに撮影していただいた作品がBAG@渋谷二丁目ストリートギャラリーに展示されたことで、自分もその変化の一部であり、街の一部になれたことを実感できて誇らしかったです」

中央が赤荻瞳

街なかだからこそ、視界に入る“違和感”を意識した

そしていよいよ2月27日、一般公募から事務局で選考した12組と、渋谷区観光協会観光大使である歌手の小林幸子を被写体とする作品の計13点が加わり、BAG@渋谷二丁目ストリートギャラリーが全面オープンを果たした。撮影を担当したヨシダナギは、ストリートでの展示というスタイルに渋谷らしさを感じるという。

「ギャラリーや美術館は作品を見るという目的を持って行く場所ですが、工事現場の仮囲いは、本当に通りすがりの場所で、たまたま作品と出会っていただける。作品との偶然の出会いや、作品や人との交差が起きるのが、渋谷らしくてとてもいいと思います。今回の作品では、何も意識せずに通りすがる人に足を止めて欲しいと思ったので、ふと視界の端に入ってくる違和感が必要だと考えて、撮影時にも仕上げのときにも色彩や構図は意識しました」

ヨシダナギ
プレオープン時の10点に、一般応募者12点と小林幸子が被写体の作品の計13点が加わった
中央が、BAG@渋谷二丁目ストリートギャラリーのキーヴィジュアルとして撮影された作品

撮影場所については、スクランブル交差点や渋谷のんべい横丁など、ヨシダとBAG@渋谷二丁目ストリートギャラリーのチームとで渋谷らしいロケーションをいくつか選び、被写体ごとに割り振った。ヨシダはこう続ける。

「学生時代、渋谷には憧れがありながら、私はどちらかというと新宿派でした(笑)。憧れがあるから緊張してしまう渋谷と、気楽な新宿……ではないですが、渋谷は遠目から見てしまう街だった。でも、当時からスクランブル交差点はまさに渋谷の象徴でしたし、そこからすぐ近くに渋谷のんべい横丁があることが素敵で、今回の撮影ではその近未来と昭和が同居する渋谷らしさを出したいと思いました」

サイズの大きな作品が、第1弾の作品の被写体。中央はバスケットボール選手の松本千寿
左はスケーターの金澤憧歩、右は渡部志保(シブヤスタートアップス株式会社 会長)
右がZeebra

幼稚園児から歌手・小林幸子まで。多彩な被写体が持つエネルギー

プレオープン時には、渋谷にゆかりのある著名人たちを撮影。今回の全面オープンに際して、渋谷区観光協会観光大使で歌手の小林幸子に加え、一般応募による12組も写真に収めた。

「皆さんとてもファンキーでした。小さい子も、淑女の方も、持っているエネルギーに渋谷独特の強さがあり、こっちまで引っ張られる個性がありました。実際に作品を並べたときも、これまでの経験では、強く印象に残る人と少し印象が薄くなってしまう人が出てくることがよくあるのですが、今回はみんながそれぞれ強くて、一人ひとりが主役。珍しい経験だったと思います」

オープニング時には、被写体になった小林幸子も登場した 写真提供:東京建物株式会社[*]

ギャラリーや美術館の外に出て行われる展示に対し、ヨシダはひとつの期待をしている。アートだからこそもたらすことが可能な影響について最後に話してくれた。

「たとえば駅のホームに行くと、電車を待っているあいだ、みんな携帯電話を見ていますよね。それは日本に限らず、世界中多くの場所で行われている行動です。それで電車に乗ってみたとき、広告の動画が流れていたりすると、ちょっと暇つぶしになったりする。駅や電車に限らず、パブリックな場所にアート性の高いものや、多くの人が興味を持つ視覚表現、情報などがふと設置されていたら、みんなが携帯から顔を上げると思うんです。外の世界や周囲に目を向けることになる。

私自身、海外に行っても携帯を見て、目の前にあるものを見ていない人が多いと感じるのですが、アートによって、スマートフォンをいじるのではなくリアルな世界を見る時間が生まれるきっかけを作ることができるのではないでしょうか」

作品は渋谷のクロスタワー裏手に位置し、青山通りと六本木通りを結ぶ道沿いに、今年の10月31日まで展示される予定だ。ふと通りがかり、写真を見ながら渋谷を感じ、足を止めてそれぞれの表情やポーズ、服装や背景などじっと見たくなる、パブリックな空間ならではの鑑賞体験ができるはずだ。

中島良平

中島良平

なかじま・りょうへい ライター。大学ではフランス文学を専攻し、美学校で写真工房を受講。アートやデザインをはじめ、会社経営から地方創生まであらゆる分野のクリエイションの取材に携わる。