会場風景
京都・西陣に拠点を置くテキスタイルブランドのHOSOOと、アーティストのシアスター・ゲイツによるコラボレーション展「シアスター・ゲイツ:Glorious Robe」が、4月11日より開幕した。


シアスター・ゲイツは、陶芸・彫刻・音楽・パフォーマンス・都市開発など多岐にわたる実践を通じて、荒廃しつつある空間やアーカイヴ、歴史や儀礼に新たな未来を構想し続けてきたアーティストだ。いっぽうで、元禄元年(1688)に創業したHOSOOは、約1200年の歴史を持つ西陣織の担い手として、伝統的な染織文化を背景に革新的なテキスタイル制作に取り組んできた。工芸文化を通じて世界と対話を続けるこの二者が出会ったのは、2024年の森美術館「シアスター・ゲイツ展:アフロ民藝」がきっかけだ。以来、織物や衣服を芸術的な実践としてともに作る協働を重ね、本展はその対話のなかから生まれた新作群を一堂に紹介する。内覧会でゲイツ本人が語ったとおり、これは何より「友情の祝祭」だ。タイトルを日本語にすると「栄光の衣服」。衣服を「纏う」という行為そのものが、展示全体を貫くひとつのキーワードになっている。
本展の核心にある作品が「Dashikimono(ダシキモノ)」だ。西アフリカを起源とする伝統衣装「ダシキ」と、日本の「着物」。一見異なるこのふたつには、衣服の構造として共鳴し合う部分がある。ダシキは民族やコミュニティのルーツと結びついた衣装であり、1960年代のアメリカではブラック・パワー運動の象徴として広がった。着物は有史以来、日本の人々の営みのなかで受け継がれてきた染織工芸の象徴でもある。HOSOOが手がけた素材はヘンプで、天然染色と組紐の構造で仕上げられている。ヘンプは日本でも一万年を超える歴史を持つ素材だ。ふたつの服飾文化の系譜が、一枚の衣服のなかで交わっている。

展示室に並ぶ帯のシリーズ「Obi」は、HOSOOが持つ約2万点の帯裂アーカイヴから素材を引用し、制作されたもの。帯には、1960年代に暗殺されたマーティン・ルーサー・キング牧師、マルコムX、メドガー・エヴァーズら黒人解放運動の指導者たちを追悼するモチーフ、フィストマーク(握りこぶし)と、それぞれが命を落とした年月日が織り込まれている。帯として結ばれると、日付が前面に現れるようにデザインされている。

このシリーズが生まれた背景には、あるアーカイヴの存在がある。ジャーナリスト・翻訳家の長田衛と、パートナーの石谷春日が執筆・収集したマルコムXに関する資料群だ。ふたりは1965年2月21日、マルコムXが暗殺された現場に居合わせた。その体験を契機に、マルコムの思想の翻訳や伝記の刊行を通じて、ブラック・アメリカの解放運動を日本へ紹介し続けてきた人物たちだ。長田の没後も資料の保存と活用に尽力する石谷の姿勢に深く共鳴したゲイツは、芸術がいかに政治的・文化的遺産の形成に関わりうるかを問いながら、このアーカイヴに新たな生命を吹き込む制作を続けている。帯という日本の伝統的な装束の形式が、共同体の記憶と追悼の媒体としてとらえ直された作品だ。


ゲイツが長年にわたり実践してきた作陶による「Vessel(器)」は、実用品であると同時に、歴史・文化・人間の精神を内包するものでもある。本展では、ゲイツが制作した「Vessel」を、茶入の仕覆のように織物で包んだ新作が発表された。「器に衣服を纏わせる」というこの発想は、ゲイツとHOSOOのあいだで重ねられた対話のなかから生まれたという。着物と器、どちらも「何かを容れるもの」であるという視点が、展示空間全体を貫いている。


会場奥の一室では、石谷春日へのインタビュー映像(2025年収録)と、津軽三味線奏者・小山豊によるゴスペル演奏の映像が日本初公開として上映される。あわせて、2024年の森美術館「アフロ民藝」展に出品された「Banner」および「Kimono」の関連作・再展示も紹介されている。

4月11日に行われた内覧会には、ゲイツ本人も来場し、ギャラリーツアーが行われた。そのあと会場1階では生演奏のライブパフォーマンスが開催され、衣服・器・アーカイヴが重なり合うこの空間に、音楽が加わった。衣服が社会的なムーブメントや政治的なメッセージを纏いうるように、音楽もまた、歴史や記憶を人々のあいだに流通させる力を持つ。「Glorious Robe」は、そうした問いを、訪れた人それぞれの感覚に手渡し続ける展覧会だ。
