公開日:2026年1月24日

10周年を迎える「シアターコモンズ'26」の見どころを紹介。Art Translators Collectiveと問うAI時代の創造

都市に新たな「コモンズ(共有地)」を生み出すプロジェクト、シアターコモンズ。記念すべき10回目が2月22日から3月8日まで都内各所で開催

「シアターコモンズ'26」メインヴィージュアル

10周年を迎える「シアターコモンズ'26」が2月に開幕

演劇の「共有知」を活用し、社会の「共有地」を生み出すことを目指し、2017年からスタートしたプロジェクト「シアターコモンズ」。10周年となる今回が、2月22日から3月8日まで都内各所で開催される。ディレクターを相馬千秋(アートプロデューサー/NPO法人芸術公社代表理事)が務める。

アンヌ=ソフィ・テュリオン&エリック・ミン・クォン・カスタン HIKU © Juliette Larochette

2026年のテーマは「Translating Commons - コモンズを翻訳する」。クリエイティブパートナーに迎えるのは、翻訳者集団Art Translators Collective(ATC)だ。ATCはシアターコモンズ全10回に欠かさず参加し、キュレーション・コンセプトやプログラムの翻訳、トークやワークショップの通訳を担ってきたが、「参加作家」としてクレジットされることはなかった。10年の活動を振り返ると、彼らこそがシアターコモンズの理念を体現してきた存在と言える。

そんなATCが今回掲げるのは「翻訳の葬式」という挑発的なタイトルだ。翻訳とはたんなる言語間の変換ではなく、ある現実を別の現実へとうつしかえる創造行為でもある。AIがそれを一瞬で生成し、人間らしさの証であるズレや躊躇いさえも模倣しうる近未来において、私たちはどのように「人間であること」を証明できるのか。今回のシアターコモンズは、「人間の翻訳(創造行為)は死ぬのか?」というATCからの問いを出発点に、AIとの拮抗が不可避となる時代の演劇のコモンズを議論する。

ロボットが媒介する、ひきこもり当事者との親密な対話

ともに身体と共同体の関係について実験的な手法で問い続けるフランス人アーティスト、アンヌ=ソフィ・テュリオン&エリック・ミン・クォン・カスタン。2020年のコロナ禍に2年間かけて日本での長期リサーチとレジデンス製作を行い、ひきこもり支援団体NPO法人ニュースタート事務局関西との協働のもと、「ひきこもり」の人たちとともにパフォーマンスを創作した。

アンヌ=ソフィ・テュリオン&エリック・ミン・クォン・カスタン HIKU © Juliette Larochette

《HIKU》では、実際に重度のひきこもりを体験し社会復帰段階にある3人の当事者/パフォーマーが彼らの部屋からロボットを遠隔操作し、アバターとして舞台に登場する。やがて通訳役を兼ねるパフォーマーが媒介する対話を通じて、ひきこもり当事者たちは観客を親密な世界の中心に巻き込んでいく。

アンヌ=ソフィ・テュリオン&エリック・ミン・クォン・カスタン HIKU © Dana Galindo

翻訳の死、そして創造の未来へ

Art Translators Collectiveは人間の翻訳の「葬式」を掲げ、パフォーマンス、ワークショップ、絵画など、自らが企画・出演する作品創作を通じて、終わりと向き合うことでしか見えてこない未来への創造/想像力を引き出そうと試みる。人間の翻訳の「死」をめぐる問いを多様な視点から考察する《翻訳の葬式》プロジェクトは、翻訳にとどまらず、人間のあらゆる創造行為の意味や価値を再考する、人類全体への問いとして展開する。

翻訳の葬式 Photo by Yutaro Yamaguchi

理性の眠りが怪物を生むとき

写真、映像、CG、パフォーマンス、キュレーションなど、多岐にわたるメディアを駆使し独自の表現活動を展開するアーティスト、原田裕規。そのベースには一貫して、見る主体と作品のあいだにパフォーマティヴな相互作用を生み出す「舞台装置」が設定されている。こうした「演劇性」を内包した造形を生み出してきた原田が、シアターコモンズにて「パフォーマンス作品」の創作に着手する。新作《スリープ》では、ゴヤの絵画《理性の眠りは怪物を生む》を参照しながら、振付家ハラサオリとの協働を通じて、VR自体をテーマにしたパフォーマンス作品をSHIBAURA HOUSEの空間に展開していく。

原田裕規 スリープ

複数の「私」と「世界」を問う

第63回岸田國士戯曲賞受賞作家、松原俊太郎が新作を書き下ろし、小野彩加 中澤陽 スペースノットブランクが演出する《魔法使いの弟子たちの美しくて馬鹿げたシナリオ》。劇作家と演出家・振付家の組み合わせでなければ生まれ得ない世界が、「豊岡演劇祭2025」での世界初演を経て、シアターコモンズに登場する。近代的言語の論理性からの遊戯的逸脱が魅力である松原戯曲。今回は、松原戯曲の初期から一貫して扱われてきた、「私」と「世界」と「時間」の「複数であること」をホグワーツ魔法魔術学校の元生徒たちとともにいまいちど問う。

松原俊太郎 / 小野彩加 中澤陽 スペースノットブランク 魔法使いの弟子たちの美しくて馬鹿げたシナリオ 撮影:3waymoon 画像提供:豊岡演劇祭実行委員会

10年の思考と実践から学ぶ

毎年恒例の「コモンズ・フォーラム」は3つのテーマで開催される。「演劇は何を『翻訳』するのか?」では、チューリヒ市立劇場のレパートリーとして上演を重ねている市原佐都子の代表作『バッコスの信女—ホルスタインの雌』の記録映像を上映し、演劇における「翻訳」を議論する。「『翻訳』の悦楽と逸脱」では、ATCとともにAI時代の人間の創造性を考察。「『共に居られる場』が生まれるとき」では、演劇《HIKU》の制作アーティストに加え、ひきこもり当事者とともに居場所づくりを続けてきた高橋淳敏、美学者の伊藤亜紗をゲストに迎え、アートとテクノロジーが交わる地点から「共に居られる場」の可能性を考察する。

さらに創設から10周年を記念し、これまでシアターコモンズで培われてきたキュレーションの思想と実践を次世代と共有する特別プログラム「次世代のキュレーターのためのコモンズ・キャンプ2026」も開催される。会期中、国内外から演劇祭ディレクターやドラマトゥルク、アーティストらを講師に迎え、レクチャー、フィールドワーク、インディペンデント・アートスペース視察などを通して、未来の企画の種を育てるプログラムだ。現地参加は締め切られているが、各レクチャーはアーカイヴ配信で見ることが可能。

コモンズ・ステイ in SHIBAURA HOUSE

また、新たな試みとして、SHIBAURA HOUSEに新たな宿泊施設「guest room」が誕生する。今回は一般予約開始前にいち早くこの「guest room」に宿泊できる「コモンズ・ステイ」を提供。滞在中はATCによるハブプログラム「ATCステーション」に参加できるほか、1階のコミュニティスペースに集う地域の人々と交流したり、2階のコワーキングスペースを利用することもできる。

チケット情報と各プログラムの詳細は「シアターコモンズ'26」の公式サイトで確認してほしい。

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