公開日:2026年4月24日

東京国立博物館、子育て世代に向けた「ファミリースペース」をオープン。そのねらいとは?

授乳やおむつ替えが可能なベビーケアルーム、約200冊の絵本、乳幼児向けのおもちゃなどを備えた常設スペースが誕生

エントランス付近に常設されたファミリースペース

「みんなが来たくなる博物館」へ向けて

4月21日、東京国立博物館(以下、東博)に、未就学児(0歳から6歳)とその保護者を対象とした「ファミリースペース」がオープンした。授乳やおむつ替えが可能なベビーケアルーム、約200冊の絵本、乳幼児向けのおもちゃなどを備えたこの空間は、子育て世代にとっては嬉しい試みだ。場所はエントランス付近の来館者の動線上。視認性の高い場所に設置されている点も大きな特徴だ。

ファミリースペースの様子

その背景をたどると、東博が進める来館者戦略の転換も浮かび上がる。東博は2038年を見据えた「東京国立博物館 2038 ビジョン」において、「みんなが来たくなる博物館」を掲げている。そこでは、子供が楽しめる場づくりや「ユニバーサルデザイン」の推進が明確に位置づけられている。

これまで東博は、学校向けプログラムやワークショップなど、教育普及活動には力を入れてきたいっぽう、館内の授乳スペースは限定的で、子育て世代にとってのハードルは依然として高かった。今回のファミリースペースは、理念として掲げてきた「開かれた博物館」を、ひとつの空間として具体化した試みだと言える。

約200冊の絵本が並ぶ
ファミリースペースの様子

きっかけは「あそびば☺とーはく!」と来館者調査

この取り組みの直接の起点となったのは、2024年に実施された「子育て世代の来館者・非来館者調査」であり、この調査をもとに企画されたのが、期間限定イベント「あそびば☺とーはく!」だった。同イベントでは、子供が遊びながら文化に触れられる場と同時に、授乳・おむつ替え・休憩などのケア機能も整備された。この実証的な取り組みを経て、「常設の場が必要」という判断に至り、今回のファミリースペース設置へとつながったのだという。

「あそびば☺とーはく!」会場風景

また、ファミリースペースの誕生を機に、館内ではおむつの自動販売機やゴミ箱を設置。こうした細かな機能は、一見すると付加的なサービスに見える。しかし実際には、子育て世代にとっては「行き先を決める条件」そのものとなる。取材でも、「授乳室やおむつ替えの環境があるかどうかが、来館先を選ぶ基準になる」という認識が語られており、「展示を見る場所」から「滞在できる場所」へと、役割を拡張しようとする姿勢ととらえることができるだろう。

設置型ベビーケアルーム「mamaro」
オムツの自動販売機 撮影:筆者

民間企業との連携が意味するもの

今回のファミリースペースは、ミキハウスの支援によって実現した。同社は、子供向け製品を展開する企業としての価値観に基づき、東博の取り組みに共感し参画したという。館内、日本の職人技術と世界最高峰の素材を融合した「ミキハウスゴールドレーベル」商品も展示されており、「本物に触れる機会」という文脈で文化体験とも接続されている。

ここで見えてくるのは、民間資源を取り込みながら環境整備を進めるモデルだ。ミュージアム全体の財政制約が強まるなかで、こうした連携は今後さらに重要になる可能性が高い。

「ミキハウスゴールドレーベル」の商品展示。展示替えも行われる

「ファーストステップ」として

東博はこのファミリースペースを「ファーストステップ」と位置づけている。現時点では、乳幼児向けのケア機能が中心であり、アクティブに遊べる空間ではない。しかし、来館者アンケートでは「遊びの要素」を求める声も確認されており、今後は利用状況を踏まえながら、内容や運営のアップデートが検討されるという。

歴史的な資料や文化財を「守る・見せる」場から、多様な来館者が安心して過ごせる公共空間へ。東博のファミリースペースは、その転換点のひとつとして位置づけられるだろう。

野路千晶(編集部)

野路千晶(編集部)

のじ・ちあき Tokyo Art Beatエグゼクティブ・エディター。広島県生まれ。NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]、ウェブ版「美術手帖」編集部を経て、2019年末より現職。編集、執筆、アートコーディネーターなど。