展示会風景より、赤羽史亮の展示
トーキョーアーツアンドスペース本郷(TOKAS本郷)で人、自然や「地」の結びつきをテーマにした展覧会「ACT(Artists Contemporary TOKAS)Vol. 8『地について』」が3月22日まで開催している。赤羽史亮、久木田茜、山田沙奈恵の3名のアーティストが、それぞれの作品を通して人と地の関わり方を再考する。担当学芸員の岩垂なつきに作品や展覧会について話を聞いた。
TOKASは同時代の表現を東京から創造・発信するアートセンター。展覧会等を行うTOKAS本郷、滞在制作やリサーチ活動を行うTOKASレジデンシー(墨田区)の2拠点があり、ジャンルや領域を飛び越えた幅広い表現活動の支援が行われている。また、国内中堅アーティストを対象とした「Tokyo Contemporary Art Award(TCAA)」を東京都と共に実施している。
現在TOKAS本郷で開催中のシリーズ展「ACT(Artists Contemporary TOKAS)」は、TOKASのプログラムに参加経験者を含め、いま注目すべき活動を行う作家を紹介する企画展で、本展で8回目。「地について」というテーマに基づき、赤羽史亮、久木田茜、山田沙奈恵の3名が新作を含めて作品を発表している。この「地について」というテーマを設定したのは、TOKASの学芸員の岩垂なつきだ。「東京で働いていたのち、最近まで数年ほど出身地の長野県に戻って活動していました。故郷に戻ったとき、上京する前に慣れ親しんでいた場所がなくなっていたり、見慣れた風景が変わっていたりと、いわゆる喪失体験があったんですね」(岩垂)。

そして、この体験が「地について」というテーマにつながったのだという。
「大好きな場所がなくなってしまったことは確かに寂しいです。ですが、それでも自分が故郷にいるということを強く感じ、ホッとする感覚もありました。建物や部屋のような「器」を超えて、自分と土地そのものに根源的なつながりがあるからでは?と感じました。それが今回のテーマ『地について』を考えるきっかけとなりました」(岩垂)


TOKAS本郷の展示室1階は赤羽史亮の展示。道路に面した大きな窓があり、そこから優しい陽光が降り注ぎ、繊維や砂、藁や木、布などが複雑に絡み合う作品が並んでいる。赤羽の作品はきのこや粘菌、昆虫たちがうごめく地下世界と自分の内にある世界を共鳴させ、投影したもの。菌類の支配する地中世界をテーマに、新作と既存の作品を組み合わせてインスタレーションを展開している。新作の2点、《Nine Holes》、《Dead Cactus》は、メキシコのアート・センター、Casa Wabiのレジデンス・プログラムに参加したときの体験をもとにしている。


「《Nine Holes》は、メキシコの海で見たカニの巣穴がインスピレーション源です。赤羽さんは巣穴をスマートフォンで連写していたそうで、後日写真フォルダを見たときに、サムネイル画面全体が巣穴の写真で覆い尽くされていたそうで、そこが出発点になったそうです。《Dead Cactus》もメキシコの経験がもとになっている作品です」(岩垂)



「赤羽さんは、制作にあたって具体的にモチーフを決めたり、何を表現しようとは決めていないそうです。インスピレーションを受けるものがあり、そこから作り始めていく過程でイメージがかたち作られます。完成予想図に向かって組み立てるのではなく、作りながら像を探していく。本人は『チューニング』の感覚とおっしゃっていました」(岩垂)
2階で展示している久木田茜は、植物を解体・再構成して様式化された装飾に関心を持つアーティスト。「装飾はもともとのかたちを解体し、再構成されたもの。その過程で文化や歴史、宗教が反映されています。久木田さんは、そんな装飾をあらためて解体して考察を試みています」(岩垂)
展示空間は3つに分かれており、冒頭の空間では貨幣の装飾模様をテーマにした作品が並ぶ。《Ornament Line》は古い貨幣の装飾部分に着目し、拡大、増殖させていったもの。《生成と再生:桜と菊》、《生成と再生:桐》は本展のための新作。貨幣にあしらわれた桜や菊、桐に着目している。



続く空間では、植物や食品トレイなどの身の回りにあるものたちが、パターンに変換されていく作品を展開する。《Latent Ornamentation》と銘打たれたアクリル板を重ね合わせた作品群は「日常でみられる草や花を題材に、装飾となっていくプロセスを作品化したものです」(岩垂)。


《Organic Industrial Cell:Natto》は、納豆のパックを、《Organic Industrial Cell:Salad tray》はサラダトレイを、それぞれ型取って焼成した陶の作品。どこにでもある納豆パックやサラダトレイが、少しずつかたちを崩していき、もとの大量生産品の文脈から離れていく、いわば「逆パターン化」の作品だ。「納豆パックやサラダトレイが、そのかたちから少しずつ解放されていくさまはとても有機的です」(岩垂)


そして、3番目の空間にあるのが本展のメイン《Altar Root》と名付けられた作品群。荘厳な雰囲気のなかにあるこれらの作品は、仏壇装飾を解体・再構成したものだ。「仏壇という宗教上の慣例的なものではありますが、久木田さんはそこから装飾を取り出すことで、自然崇拝、信仰心という根源にアクセスしていきます」(岩垂)。


3階の展示は山田沙奈恵の映像とインスタレーション。山田は、土地や自然災害をテーマにリサーチやフィールドワークを行い、環境と人間との関係性について探求している。ふたつの空間で構成された本展では、手前の暗い空間に映像作品《蟲のいどころ》と関連作品、奥の明るい空間に映像インスタレーション《他人の靴まで》と《助けを呼ぶ⇄助けに気づく》を展示している。
「山田さんは自然の脅威を取り上げる作家ですが、災害の直接の被害をモチーフにするのではなく『災害が起こり得る状況』や、平常時の脅威との関わり合い方を題材としています」(岩垂)
《蟲のいどころ》は地中の構造や、洪積台地と沖積低地で構成される東京東部の地形、マントルを構成する鉱物のカンラン石、ナマズや地震蟲などの伝承、地上で避難訓練を行う女性などのイメージから、災害をどうとらえるかを考察する作品。

映像インスタレーション《他人の靴まで》もまた、災害時に見知らぬ他者の支援に向かうまでの距離について扱った作品。「自然災害は、起こった瞬間だけの出来事ではなく、その原因は前後の長い時間に社会の中でも形成されます。山田はその過程を、映像作品の制作を通して追求しています」(岩垂)


3名のアーティストは、「地について」というテーマについて、それぞれに掘り下げ、独自の世界を切り開いていった。「地下の世界に着想を得ている赤羽さんだけではなく久木田さん、山田さんも、こちらが誘導はしていないにもかかわらず、それぞれに地中に関心が向かっていきました。久木田さんは仏壇装飾をモチーフとした作品で装飾の「根」にあるものに関心を寄せている。山田さんは《蟲のいどころ》で、地下の世界について言及しています。3名それぞれが解釈した「地について」を楽しんでいただきたいと思います」(岩垂)