公開日:2026年1月5日

「浮世絵おじさんフェスティバル」展が原宿・太田記念美術館で開幕! 歌川広重や葛飾北斎らが描いた、あんなおじさんやこんなおじさんに思わずにっこり

東京の浮世絵専門美術館にて開催。会期は1月6日~3月1日

会場風景より

主役はおじさん!

旅するおじさんに働くおじさん、美味しそうにごはんを食べるおじさん……。江戸の時代を生きた、名もなき、しかし味わい深い“おじさん”たち。彼らが主役の展覧会「浮世絵おじさんフェスティバル」が開催される。

会場は東京・原宿の太田記念美術館。会期は1月6日~3月1日(前期 1月6日~2月1日、後期 2月5日~3月1日、前後期で全点展示替え)。

会場風景
歌川広重 東海道五十三次之内 鞠子(後期展示)

近年、歌川広重を中心に、風景画などに小さく描かれた味わい深い人物たちの魅力を紹介する展覧会が各地で開催されている。本展は絵の脇役にとどまらない、個性豊かで愛嬌溢れる風景画の中のおじさんたちに注目するもので、昨年に中山道広重美術館で好評を博した「浮世絵おじさんフェスティバル」展のコンセプトをもとに、ほかの浮世絵師も加えて新たに構成。前後期あわせて150点を超える作品が登場し、多彩なおじさんたちの姿を楽しむことができる。

太田記念美術館では2023年に「広重おじさん図譜」を開催しており、約3年ぶりの“おじさん展”だ。企画を担当した同館の渡邉晃は、「3年前の展示ではSNSの反応の良さが印象的だった」とその反響を振り返る。「投稿をすればたくさんの”いいね”が付くので楽しくて仕方がなかった」とぶっちゃけ話も飛び出しつつ、”おじさん”にフォーカスして浮世絵を見ることで、新たな発見が多々あるとその魅力を語る。

会場にて、渡邉晃(太田記念美術館上席学芸員)

「広重の浮世絵では、風景の背景にいる人物が個性豊かで、誰ひとりとして手抜きがありません。おじさんたちはいわゆるモブ、背景の人物ですが、そこに注目することで、(鑑賞者は)絵をより詳細に見るようになる。

またそうした細部に絵師の個性が現れています。浮世絵というのは、その時代ごとの流行の変化を受けて、画風も変わっていきます。浮世絵師は普通、(美人画の人物など)メインのモチーフに注力しますが、風景画の背景の人物は、そうした流行とは一歩離れて、リラックスして描かれているように見える。そうした描写に、絵師たちの日頃からの観察力や、(技量の)蓄積が現れます」(渡邉)

会場風景より、歌川広重《東海道 五十四 五十三次 大津》(嘉永4、1851)
会場風景より、歌川広重《東海道 五十四 五十三次 大津》(嘉永4、1851)部分 ケンカをしている人をにんまりしながら眺めている右手のおじさんに注目。また見せたいものが画面の中央にあるわけではなく、その周辺で何かが起きているという構図も広重特有のものだという

おじさん描写からわかる広重の凄さ

本展の前半は、歌川広重の作品が並ぶ。「東海道五拾三次之内」など風景画でよく知られる広重だが、そこに配されたおじさんたちの描写から、この絵師の別格ぶりが見て取れるという。「広重がすごいのは、(描かれた人物のなかに)同じ顔がひとりとしていないこと」(渡邉)。画一的ではない、その時々の心情や状況が伝わってくるような多彩なおじさんたちからは、いろいろなドラマが感じられる。

渡邉がなかでもお気に入りと語るのが、《東海道 丗四 五十三次 二川 猿か馬場》(嘉永4、1851)。

歌川広重 東海道 丗四 五十三次 二川(前期展示)
会場風景より、歌川広重《東海道 丗四 五十三次 二川》(嘉永4、1851)部分

「扇子持ってぷらぷら歩いていますが、荷物は持っていないので、旅人ではなさそう。とてもにこやかな顔で、歌でも歌っているのかな。まずこのおじさんがすごくいいなと思うんですが、右手にはかごに乗ろうとしている人や、左にはお餅を食べようとしている人もいて、様々なドラマが小さくいろいろなところに描き込まれている。見逃せる場所が全然ないんです」渡邉)

会場風景より、歌川広重《東海道五拾三次之内 奥津 興津川》(天保4-7、1833-36) 駕籠(かご)に乗った力士に目がいくが、それを担ぐ4人のおじさん(人足)は全員ぐったりしている、と渡邉
会場風景より、歌川広重《木曽海道六捨九次之内 五捨壱 伏見》(天保8-9、1837-38)
会場風景より、《木曽海道六捨九次之内 五捨壱 伏見》(天保8-9、1837-38)部分 気持ちよさそうに寝転ぶおじさん

本展準備中には、二代歌川広重ら弟子たちによる作品も多数紹介するつもりで検討されたそうだが、結局出品された二代の作品は1点のみ。初代広重に比べると、どうしてもおじさんの描写が画一的だったり面白みがなかったりしたそうで、改めて初代広重の凄さが明らかになったかたちだ。

会場風景より、二代歌川広重《東海道 箱根/三島》(文久3、1863)

また、重要なのは絵師だけではない。「小さい人物を描き分けるには、彫り師や刷り師も大変で、力量が試されます。少しの線の角度で、顔が変わってしまいますから」(渡邉)。おじさんを通して、そんな浮世絵の技術に思いを馳せることもできるだろう。

会場風景

葛飾北斎など様々な浮世絵師のおじさんも

さらに展覧会では、葛飾北斎歌川国芳から小林清親など、時代も異なる幅広い浮世絵師たちの作品が一堂に会す。

現代でも人気の高い『北斎漫画』をはじめ、北斎は優れたデッサン力に基づいたリアルな人体表現と、ユーモラスさを兼ね備えた人物を数多く描いた。

会場風景より、葛飾北斎の展示
会場風景より、葛飾北斎『北斎漫画』十編(文政2、1819)

小林清親は明治時代に光線画と呼ばれる風景画で人気を博した画家であり、《本所御蔵橋》(明治13、1880頃)ではシルクハットを被った人物が描き込まれるなど、その時代の世相も反映されているのが興味深い。

小林清親 本所御蔵橋(前期展示)

おじさんという切り口から、浮世絵の新たな魅力を発見できる本展。お気に入りのおじさん探しに、ぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。

福島夏子(Tokyo Art Beat編集長)

「Tokyo Art Beat」編集長

福島夏子(Tokyo Art Beat編集長)

「Tokyo Art Beat」編集長

『ROCKIN'ON JAPAN』や『美術手帖』編集部を経て、2021年10月より「Tokyo Art Beat」編集部で勤務。2024年5月より現職。