公開日:2026年4月7日

VaundyがYBAの作家精神に抱いた共感とは? 「YBA & BEYOND」展(国立新美術館)で語る、創作観と英国文化への愛(聞き手:新谷洋子)

公式テーマソング「シンギュラリティ」を書き下ろしたVaundyが、「テート美術館 ― YBA & BEYOND 世界を変えた90s英国アート」を訪れた(構成:後藤美波[編集部])

Vaundy 撮影:日吉"JP"純平

「特集:YBA 90s英国美術は、いま何を語るのか」──YBA(ヤング・ブリティッシュ・アーティスト)と、それを生んだ90年代という時代を今日の視点で振り返る、Tokyo Art Beatの特集シリーズ。展覧会「テート美術館 ― YBA & BEYOND 世界を変えた90s英国アート」の開催にあわせて、90年代という特異点を、アートにとどまらない現代の多様な視点で見つめ直す。


東京・六本木の国立新美術館で5月11日まで開催されている「テート美術館 ― YBA & BEYOND 世界を変えた90s英国アート」は、テート美術館のコレクションを中心に、1990年代後半から2000年代初頭にかけてのイギリス美術を約100点の作品を通してたどる展覧会だ。

本展の中心となるのは、大胆でときに物議を醸す手法によって既存の美術の枠組みを打ち破り、世界のアートシーンに衝撃を与えた「YBA(Young British Artists、ヤング・ブリティッシュ・アーティスト)」と呼ばれるアーティストたち。そんな展覧会の公式テーマソング「シンギュラリティ」を、2000年生まれのVaundyが書き下ろした。

出品作品の多くが制作された当時はまだ生まれてもいなかったVaundyだが、テート・モダンでのライブパフォーマンスやアビー・ロード・スタジオでのレコーディングなど、ロンドンとの縁は深い。約30年前に起きたアート界の革新を、いま彼はどのように受け止めるのか。クリエイターとして感じたYBA作家への共感や、「シンギュラリティ」の制作秘話、多大な影響を受けているというイギリス文化への想い、さらにはテート・モダンを訪れた際のエピソードまで。男性ソロアーティスト史上最年少で4大都市ドームツアーを全公演完売させるなど、いまもっとも勢いのあるミュージシャンのひとりが「YBA & BEYOND」展を起点に語る。【Tokyo Art Beat】

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わけわからない作品も、明らかにすごく強い意志がある

──展覧会をご覧になった感想を聞かせてください。気になったアーティスト、作品は?

コーネリア・パーカー《コールド・ダーク・マター:爆発と分解イメージ》(1991)は好きでした。いくつか作品をイギリスで見たような気もするのですが、この作品は印象に残っています。作品の内部を見るとほとんど日本では馴染みのないものばかりで構成されているから、日本人には逆に嘘のように見えるというか、映画のセットのようにも感じるんですよ。だけど実際に人が生身で使っているようなものがある。日本との死生観の違いが出ているようにも感じました。この作品が日本にあるのは不思議な感じがするな。

コーネリア・パーカー《コールド・ダーク・マター:爆発の分解イメージ》(1991)。英国陸軍に、イギリスの裏庭にある物置小屋を爆破することを依頼し、残った残骸を爆発の瞬間を切り取ったかのように吊るしたインスタレーション。北アイルランド紛争が終焉に向かっていた当時、英国内でIRA(アイルランド共和軍)による爆破事件が立て続けに起きていたことが背景にある 撮影:編集部
Vaundy 撮影:日吉"JP"純平

あとは、自転車の作品(エリザベス・ライト《B.S.A.社製のレーサータイプ自転車「ツアー・オブ・ブリテン」を135%のサイズに拡大したもの》[1996-97]、実際の自転車を解体し、拡大レプリカを制作した作品)もとても好きでした。見たときに「ああ、こういう意味か」となるようにもできているのが面白いです。展示作品のなかには、どういう意味なんだろうと感じる作品もたくさんあって、そういった作品もわけわからないんだけど、明らかにすごく強い意志があるんですよね。「これがやりたいから、とりあえず形式はこれでやろうぜ」という衝動でもの作りをしている感じが、すごくいいなと思いました。

エリザベス・ライト《B.S.A.社製のレーサータイプ自転車「ツアー・オブ・ブリテン」を135%のサイズに拡大したもの》(1996-97)。レース用自転車を解体して、各部品の写真を撮って拡大レプリカを作り、組み立てた作品。車体の傷や錆など、自転車の使用感も再現されている 撮影:編集部

イギリスで制作した楽曲から生まれた「シンギュラリティ」

──本展の公式テーマソング「シンギュラリティ」が完成するまでの経緯を教えてください。歌詞やサウンドプロダクションなど、どのように構想を膨らませたのでしょう?

「シンギュラリティ」はもともと原型があって、それもイギリスで作った曲だったんです。1~2年ほど前に作って完成していなかったものを、せっかくだからこの機会に完成させたら合うんじゃないかなと思って作りました。僕なりに、芸術やもの作り、人に見せることについて、それから、人はそれらをどんな心境でやっているのか、ある種、自分のなかの特異点を探す作業だったりするのかな?など、いろいろと考えて作ったのがこの曲です。

Vaundy「シンギュラリティ」

──特異点を探すことはVaundyさんも常日頃からアーティストとして実践しようとしていることなのでしょうか?

そうですね。僕はいろんなものに合流地点があると思っています。ものを作る側と消費する側もそうですし、僕自身も自分のもの作りや本当にやりたいことの合流地点を探していたりする。そして、アートというカルチャー全体がやり切り過ぎて特異点に達する、というようなこともあるし、それを突破しないと新しいものは出てこなかったりもする。「シンギュラリティ」という言葉は大きな意味を持っているので、今回にぴったりだなと感じました。

──ジャケットには、マイケル・クレイグ=マーティンの作品《Eye of the Storm》(2003)を使用しています。この作品、あるいはアーティストにどんな印象を抱いていましたか?

(マイケル・クレイグ=マーティンは)1回作品を見たら絶対に思い出せるというか、目に入ったら「あの人だ」と思い浮かぶ。どの作品を見ても、「この人ってこうだよね」というスタイルがあるのはすごいことだと思います。今回は僕が見た作品のなかで、いちばん好きだった絵を使わせていただきました。

Vaundy「シンギュラリティ」ジャケット
後ろはマイケル・クレイグ=マーティン《知ること》(1996) 撮影:日吉"JP"純平

コンテンツが溢れる現代の音楽家として、YBA作家のアティチュードに抱いた共感

──本展の展示作品の多くは、Vaundyさんが生まれる前である1990年代に制作されています。約30年前の表現を見て、いまの社会やご自身の表現と通じるような価値観はあると感じましたか? あるいは違和感を覚えたことはありますか?

感覚的に変だなとあまり思わないところが、逆にすごいですよね。僕はこういった前衛的なアートは、芸術家たちが秩序のないものに「これも面白いものとして認めればいいんじゃない?」と“許可”のハンコを押すような作業だと思っています。僕らはカオスにさらされてきた世代で、物心ついたときにはみんな携帯を触っていましたし、いまはSNSもあって、変なものもたくさん見てきた。(展示作品のような)30年前に「これはどうなの?」と言われていたものにいま改めて触れてみると、僕らはそれらに“許可”が出されたあとの世代として、SNSで当たり前にコンテンツになっている土壌の上で生きてきたんだな、ということも感じました。

新しいものを提唱するアーティストってそういう人のことを言うんだと思います。だから僕らがやらなくてはいけないことは、「許可する」ということなのかなと思うんです。新しいものを「これはオッケーじゃない?」と“許可”を出して、20年後、30年後にその結果が出てくるのかなと。今回のような展覧会を見るとそんなことを思わされます。

Vaundy 撮影:日吉"JP"純平

──本展キュレーターのひとり、テート・ブリテンのヘレン・リトルさんはTokyo Art Beatのインタビューで、「YBAは“様式(style)”でなく“姿勢(attitude)”」だと言っていました。YBAのアーティストたちは、既存の考えにとらわれない自由な素材・技法選びや、挑発的な手法、セルフプロモーションに長けた起業家精神などで知られます。こうしたYBA作家の姿勢については、同じクリエイターとしてどのようにご覧になりましたか?

僕たちの世代はもうそれを無意識にやっていて、当たり前に人に見せる方法まで考えなきゃ戦えなくなってきている。それはおそらく、彼らのような作家たちが「俺らがこういうことをやるべきでしょ」って“許可”したあとの世代だからなんでしょうね。

「そもそも戦うって何?」ということを考えることも必要ですが、もの作りを商業にするには対価をつけなればいけないし、これだけコンテンツがあるなかで評価してもらうには、人の可処分時間を買わなければいけない。音楽家はがむしゃらにいろんな場所でライブをして、そこからファンを連れてきて、「聞きたいやつだけ聞けばいい」という人も昔はいたと思うのですが、僕がやり始めた頃には全然違っていて。人に聞いてもらいたいと思った時点で商業に傾ける以外に方法がない。それをやらずにこられた人たちは本当に運が良かった人たちだと思います。僕も運が良かったほうだとは思いますが、それでもやはり自分の作ったものに対価をつけなくてはいけないという壁を感じている世代ではあるから、YBAの作家たちの精神にはすごく共感します。

会場風景より、ダミアン・ハースト《後天的な回避不能》(1991、テート美術館蔵) 撮影:編集部

すべての楽曲にイギリスの音楽からの影響がある

──Vaundyさんは何度もイギリスを訪れているそうですが、そもそもイギリスのカルチャーに興味を抱いたきっかけはなんだったのでしょう?

僕は音楽をやり始めたときにやっときちんと洋楽を聞くようになったんです。音楽のことをちゃんと考え始めたのが10代後半だったので、結構遅かったんですよね。そのときにイギリスのカルチャーがすごく好きだった幼なじみにいろいろ教えてもらいました。

あと、僕は映画『シュレック』が大好きなのですが、『シュレック2』に(デヴィッド・ボウイの)「Changes」のカバーが使われているんです。ずっと好きな曲だったのですが、当時はカバーだと知らず、大人になってデヴィッド・ボウイのことをちゃんと知るようになってからボウイの曲だったのだとわかりました。そういうふうに僕は知らないうちにイギリスの様々なものに影響を受けていた。それで、行ったほうがいいなと思ったんです。

最初に行ったのは3年前だったかな。行ってみたらやっぱりすごく肌に馴染む感じがしました。でも話されている言葉が日本語ではないので、いらない情報をシャットアウトできるという良さがある(笑)。それから4回ほど行っています。行くたびに、日本語の持っている陰と陽のニュアンスと、イギリスの英語が持っている陰と陽のニュアンスが近いなと思うし、もの作りとの向き合い方に関しても、ぱっと見てわかりやすい部分とダークな部分が表裏一体である感じが日本人の考え方と近いなと思っていて。どちらも島国だということも関係しているかもしれないですが、違いはありつつ共感できる部分が多いので僕は好きです。

Vaundy 撮影:日吉"JP"純平

──「ここは間違いなくイギリスの音楽に影響を受けた」と自覚している点はありますか?

そもそも日本の音楽はイギリスの音楽に大きな影響を受けていますし、僕もおそらくすべての曲にイギリスの音楽の影響が入っていると思います。とくにアルバム『replica』(2023)を発表した時期は、サウンドメイクもイギリスのやり方を意識していました。

『replica』ジャケット

イギリスの音楽は意識せずにナマ感を出しているのがクールだと思う。日本とイギリスはスタジオからして違うんですよね。日本のスタジオは反響がない美学というか──もちろん反響があるスタジオもたくさんありますが──基本的にはきれいに録っていくという文化なんです。でも向こうは、きれいに録っているつもりでも、良い渋みや雑味がある。あれをずっとやりたいなと思っています。オアシスも聞いていたし、イギリスの音楽を聞いている人たちが僕の音楽を聞いたら、どういうものが好きなのか一発でわかるんじゃないかな。

ロンドンで収録された「踊り子」のパフォーマンス

生活するように滞在したロンドン。テート・モダンに惹かれた理由

──YBAと呼ばれるアーティストとも関係の深いテート・モダンはVaundyさんにとって馴染み深い場所ですよね。イギリスに行ったらここはチェックしなければと考えていたんですか?

僕はイギリスに生活しに行こうと思っていたので、あまり観光はしなかったんです。「向こうで普通に生きていたとしたら、どんなものに触れるのか」ということのほうが重要でした。それで普通に生活をしていたら、歩いて行った先にテート・モダンがありました。良い場所にあるんですよ。セントポール大聖堂が目の前にあって、そこに向かう道も好きです。

テート・モダンはすごい密度なんですよね。でも広い。密度があるのに広いというのは、僕には初めての体験でした。見る場所に困らない作品数があるにもかかわらず広いから、ずっと見ていられる楽しさがあるし、形式ばった美術作品があまりないんですよね。肖像画などはテート・ブリテンにあるけれど、テート・モダンはカジュアルに、感覚的に見られる作品が多いように感じます。

Vaundy 撮影:日吉"JP"純平

──Vaundyさんが勧めるテート・モダンの楽しみ方は?

僕は来ている人たちの絵をずっと描いていました。みんな黙って作品を見ていて、止まっていてくれるので、「面白い立ち姿だな」などと思いながら、勝手にクロッキーを描いていたんです(笑)。

あと物販が好きです。どの美術館でも絶対に物販に行くのですが、欲しくなるものがいっぱいある。しかもテート・モダンは無料で入れるので(*常設展のみ)、何も考えないで居座っているだけでいい。だからとりあえず行って、飽きたら座って、「今日はもうここまででいいか。また明日にしよう」くらいの気持ちでいるのがいちばん楽しいと思う。「これ見なきゃ、あれ見なきゃ」という感じではなく、できるだけ力を抜いて自由に見たほうが良い場所です。僕は公園に行く感覚で行ってましたね。

ないものを作りたい、当事者でいたい

──本展の出品作家にかかわらず、好きな美術家や作品はありますか?

なんだろうな……イギリスに行ったら絶対に美術作品を見に行くのですが、ふだんは自分が作ることばかり考えていて。僕がいちばん鑑賞している美術作品は映画だと思う。

でもやっぱり「この作品はこれを伝えたいんだな」「この写真はこういう時代のものなんだな」といったことを意識しすぎなくても良いと思います。なんとなく目に入った広告を調べたら、作家がめちゃくちゃカッコいい作品を作っている人だった、というような出会いでも良いと思いますし。僕も結構印象で見ているし、「パッと見て気持ちいい」という感覚を自分の作品でも大事にしています。Vaundyという名前を覚えられていなくても良いと思っているんです。作品に価値がつけば良いから。

──Vaundyさんの場合、アートと偶然に触れる機会を大切にしているということでしょうか? そしてギャラリーや美術館に行くのは海外にいるときのほうが多い?

そうですね。単純に日本にいるとずっと忙しなく動いているから、改めて時間を作るとなったら、映画を見るときや、それこそチケットを買って国立新美術館に来るときなどです。本当はもっと散歩がてらに、美術やもの作りに偶然衝突する機会があればいいなとは思うけど、日本では頑張って見に行かないといけないものになっているような気もします。だから僕は一時期、イギリスにずっと行っていたのだと思います。やらなくていいことを探していたら面白いものに出会う、というような体験ができるので。

Vaundy 撮影:日吉"JP"純平

日本では何を見ているんだろうな……。僕はもともと「こういうものが欲しいから自分で作る」ということが発端なので、自分でやっていたい、自分が当事者でいたい、という気持ちがあるんです。それに、ないものを作りたいと思っているから、それに集中してる時間のほうが長いかもしれません。でも、これはもの作りをする人の考え方なので、逆に普段もの作りをしない人たちがどんなふうにアートと対峙しているのか聞いてみたいな。画廊も都心にたくさんありますけど、なんかちょっと偶然性がないというか。生活の隣にもっと芸術があれば、いまの僕にとっても、より身近なものになっているのかな。

──最後に、本展をご覧になったVaundyさんから、来場する人たちに向けてあらためてメッセージをいただけますでしょうか。

この展覧会は作品から何かを受け取って、それを気持ちいいと感じる感覚をどれだけ持っているかを試せる場所だとも僕は思っていて。純粋に見に来て「ああ、こういう表現の仕方があるんだな」って体感して、自分のボキャブラリーのひとつにしていく機会になると良いんじゃないかなと思いました。

Vaundy

バウンディ。アーティスト 25歳。作詞、作曲、アレンジを全て自分でこなし、デザインや映像のディレクション、セルフプロデュースも手掛けるマルチアーティスト。2019年春頃からYouTubeに楽曲を投稿開始。「東京フラッシュ」「不可幸力」など、耳に残るメロディーと幅広いジャンルの楽曲で、瞬く間にSNSで話題となる。デビュー以降、サブスク令和時代の象徴的な存在として注目を集めており、17曲が1億回再生を突破、日本ソロアーティスト1位の記録を打ち出している。 2025年春現在、サブスクリプション・YouTubeのトータル再生数は、100億回以上を突破。リリース配信楽曲は長期にわたりチャートインし、CM、ドラマ、映画、アニメなど各方面でのタイアップ曲に起用されている。

新谷洋子

新谷洋子

しんたに・ひろこ ファッション雑誌の編集者を経て、フリーランスの音楽ライターに。主に海外ミュージシャンの取材、日本盤アルバムのライナーノーツの執筆、歌詞対訳ほかの翻訳を手掛ける。訳書に『モリッシー インタヴューズ』(シンコーミュージック刊)がある。