公開日:2026年3月14日

金沢に新たなアート・スペース「YAMADART」がオープン。温泉宿の文化が生み出した創造の拠点をレポート

石川県の名宿「花紫」の6代目当主が手がける新ギャラリーを訪問。こけら落とし展「TAMA」は4月19日まで開催中。

会場風景 画像提供:YAMADART

金沢・香林坊エリアに誕生した新スペース

伝統文化と現代性の交差する金沢の街に、新たなアートスペースYAMADARTがオープンした。

場所は、複数の美術館やギャラリーが集まる香林坊エリア。2027年から休館に入る金沢21世紀美術館の仮移転先である、日本銀行旧金沢支店跡地のほど近くだ。展示作家には、工芸やストリートカルチャーなどの「これまで芸術作品としてとらえられていなかった造形」をルーツに持つ現代アーティストを招き、都市と文化をつなぐ「窓」としての役割を果たす場を目指す。運営は創業120年以上の歴史を持つ温泉宿・山田屋(現:花紫)が手がけ、同旅館6代目当主の山田耕平がディレクターを務める。

会場風景 撮影:編集部

現在、同ギャラリーではニューヨークを拠点に活動する作家の個展、更谷源 「TAMA」が開催中(会期は4月19日まで)。本展では、山中温泉での約4ヶ月間でのレジデンスを経て制作された「TAMA」シリーズの新作10点が、ギャラリーの1階と3階で展覧されている。

会場に入ってすぐ目を引くのは、展示室を埋め尽くすかのように佇む2mの巨大な立体作品だ。麻布で骨組みをつくり、その上から何層にも分けて漆を塗り込める「乾漆」の技法によって制作された真円の作品群は、そのすべてが手作業でかたち作られたもの。漆特有の鏡面効果によって、鑑賞者は日常を忘れ己と向き合う瞑想的な時間へと誘われる。

会場風景 撮影:編集部

3階では、複数の「TAMA」シリーズをインスタレーション形式で展示。赤褐色と黒というふたつの色のバリエーションで構成される作品群は天然の漆を素材とし、その色彩は時間が経つごとに経年変化する。西洋の伝統的な彫刻作品が不変的な強度や永久性を志向するいっぽう、工芸の技法をベースに作られた更谷の作品は、自然の移ろいや陰翳といった日本的な美学を強く感じるものだ。

会場風景 撮影:編集部

漆芸家の3代目として生まれた更谷は、自身が現代アートの作家として制作を行う理由について、漆産業の現状と重ね合わせながら次のように語る。

「いま漆の産業は先が見えない状況にあります。原材料としての漆の生産量も、刷毛をはじめとした道具も年々その数が減ってきているなかで、どうにかして漆の伝統や素晴らしさを広めたいという思いが自分の制作の根底にはある。今回の展示を通じて、ぜひ作品の奥にある漆技術そのものにも興味を持ってもらえればと思います」

会場風景 画像提供:YAMADART

老舗旅館「花紫」がギャラリーをオープンしたワケとは?

同ギャラリーの運営や出品作家の選定を統括するのは、山中温泉の地で120年以上の歴史を持つ旅館「花紫」の6代目当主・山田耕平だ。大学卒業後、サンフランシスコの美術大学で写真を学び、渡米中からアートに深い関心を寄せていた山田は、2021年に株式会社山田屋の代表取締役に就任。「アートを生活のなかにある身近なものとして感じてもらいたい」という思いから、旅館内には作品展示のためのスペースが数多く設けられている。

花紫 外観 画像提供:YAMADART
山田耕平 画像提供:YAMADART

温泉旅館とアートは、一見して無関係なものとして感じられるかもしれないが、歴史をひもとくとそこには100年以上前から続く意外なつながりが見えてくる。美食家・芸術家として知られる北大路魯山人が、かつて加賀の温泉宿で制作を行っていたように、旅館という場所は数多の文人墨客が集う、現代のアーティスト・イン・レジデンスのような役割を果たしていた。

花紫 内観 画像提供:YAMADART

こうした背景を鑑みれば、今回のギャラリーオープンは「人々が温泉に浸かり、他者と出会いながら自身の創作に向き合う場」としての旅館の在り方に改めて立ち返るような試みと言えるだろう。「花紫」の前身である山田屋には「温泉は創造の泉である」という言葉が伝えられている。YAMADARTの2階に、作家が滞在制作を行うためのスペースが設置されていることもまた、こうした同旅館のコンセプトを体現しているかのようだ。

同旅館の「アートスイートルーム」には、国際芸術祭「あいち2025」の参加アーティストでもある、佐々木類のガラス作品が常設展示されている 画像提供:YAMADART

今後は3〜4ヶ月に1回のペースで展示替えが予定されている同ギャラリー。金沢の街に新たに芽吹いたこの「創造の泉」が、今後どのような出会いを生み出していくのか期待が膨らむ。

井嶋 遼(編集部インターン)

井嶋 遼(編集部インターン)

2024年3月より「Tokyo Art Beat」 編集部インターン