公開日:2026年1月28日

「スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」展が上野・東京都美術館で開幕。19世紀スウェーデン美術の黄金期を辿る

パリから帰国した画家たちが描いた、日常のかがやき。19世紀スウェーデン美術の黄金期をスウェーデン国立美術館所蔵の名画で紹介する展覧会

カール・ラーション カードゲームの支度 1901

スウェーデン美術黄金期の絵画が一堂に

スウェーデン国立美術館の全面協力のもと、19世紀末から20世紀にかけてスウェーデンで生み出された絵画を紹介する展覧会「スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」が、上野の東京都美術館で開催中だ。

同館の開館100周年を記念する最初の特別展となる本展は、スウェーデン美術黄金期の絵画を通して、自然とともに豊かに生きる北欧ならではの感性に迫る。会期は1月27日から4月12日まで。

1880年代からスウェーデンの若い世代の芸術家たちがフランスで学び、レアリスムに傾倒した。故郷へ帰った彼らは、自国のアイデンティティを示す画題を探し、フランスで学んだ手法から離れて独自の表現を築いていく。自身の感情や叙情性を重視し、自然や身近な人々、日常のなかの輝きを、親密で情緒あふれる表現で描き出した。「自然」「光」「日常のかがやき」をキーワードに掲げる本展の見どころを見ていこう。

オーロフ・アルボレーリウス ヴェストマンランド地方、エンゲルスバリの湖畔の眺め 1893

スウェーデン近代絵画の夜明け

スウェーデンでは、ほかの北欧諸国に先駆けて1735年に王立素描アカデミーが創設され、のちに王立美術アカデミーと改称された。そこではフランスにならった伝統的な美術教育が行われ、スウェーデンの歴史や神話を題材とする作品の制作が重視された。

会場風景

19世紀半ばのスウェーデンの美術は、フランスやドイツから大きな影響を受けていた。とくに風景画においては、崇高な自然の姿をドラマティックに描き出す、ドイツのデュッセルドルフの画家たちの作品が手本とされ、多くのスウェーデンの画家がこの地をめざした。第1章では、エードヴァッド・バリをはじめとする、他国で風景画を学び、スウェーデンに新しい理念を伝えた画家たちの軌跡を辿る。

マルクス・ラーション 荒れ狂うボーヒュースレーンの海 1857

パリへ、そして「反逆者たち」の誕生

1870年代後半から、多くの若い画家たちは、新しい表現や価値観、それに応じた専門的な指導を求めて、フランスのパリへ向かった。当時のパリは、印象派をはじめとする前衛的な美術が次々と生まれ、最新の芸術に触れる格好の場であった。そのなかでスウェーデンの画家たちが魅了されたのは、人間や自然のありのままの姿を見つめ、確かな描写力で伝える自然主義やレアリスムの表現である。

カール=フレードリック・ヒル 花咲くリンゴの木 1877

やがてフランスでの自由な雰囲気のなかで新たな感性を身につけたスウェーデンの画家たちは、母国の美術界に根強い保守的な傾向に対して、不満を示すようになっていく。そして「反逆者たち」を意味する「オポネンテナ」と呼ばれた彼らが、のちに1890年代以降のスウェーデン絵画の流れを先導していくことになる。

会場風景

静かな村で育まれた光と空気

自然主義やレアリスムに親しんだスウェーデンの画家たちは、戸外での制作を重視するようになる。バルビゾン村に集い戸外制作を実践していたカミーユ・コローやジャン=フランソワ・ミレーにならい、北欧の芸術家たちもフランス各地に共同体を築いていった。

その拠点のひとつは、パリの南東に位置する小さな村、グレ=シュル=ロワンである。各国から芸術家たちが集い、のちに黒田清輝や浅井忠も滞在したこの村で、画家たちは農園や画家仲間、村人の日常を題材に、繊細な光とみずみずしい空気に満ちた作品を描き出した。第3章は、その和やかな雰囲気を映し出す。

カール・ノードシュトゥルム グレ=シュル=ロワン 1885-86
フリューノ・リリエフォッシュ カケス 1886

帰郷、そして新たな芸術の探求

1880年代の終わりになると、フランスで制作をしていた多くのスウェーデンの画家たちは故郷へ帰国した。最大の理由は、フランスでの経験を通して、「スウェーデンらしい」新たな芸術を築きたいという願いが芽生えたことにあった。

帰国後の画家たちは、家族との暮らしや仲間たちの姿など、日常のなかにある光景を親しみやすい表現で描いた。なかでもカール・ラーションは、家族との心地の良い時間を描いた画集《ある住まい》で、理想的で新しい家族のかたちを提案し、国境を越えて親しまれた。

カール・ラーション カードゲームの支度 1901

また、アンデシュ・ソーンはダーラナ地方の音楽や踊りなど、伝統的な民俗文化に光を当てた。彼らが暮らしのなかに見出した「日常のかがやき」は、今日の「スウェーデンらしい」イメージを支える基盤となっている。第4章では、温かい暮らしの場面に注目してほしい。

会場風景
アンデシュ・ソーン 音楽を奏でる家族 1905

見えない世界を描く

フランスから帰国したスウェーデンの画家のなかには、目の前の事物を客観的に描写することよりも、感情や気分といった内面の世界を表現することに関心を寄せる者もいた。彼らは、現実のかなたにある人間の目に見えない心理や精神のありようを、絵画で探ろうとしたのである。第5章は見えない世界や神話の世界を描く作品に焦点を当てる。

アーンシュト・ヨーセフソン 水の精(ネッケン) 1882

北欧の光が照らす風景

1890年代以降、スウェーデンの風景画は新たな展開を迎える。かつて「描くべきもののない国」とさえ言われたスウェーデンであったが、森や湖、山岳地帯、岩礁の続く海岸線、雪に覆われた冬の大地など、この国ならではの厳しくも豊かな自然が、画家たちによって改めて「発見」され、それを描くためにふさわしい表現が模索された。

会場風景

彼ら彼女らが風景を描く際に共通して重視したのは、絵の題材や独自の技法だけではなく、風景を通して感情や雰囲気を伝えることであった。そうして生まれた作品は、スウェーデン絵画に独自の特徴を与え、新たな時代のかがやきをもたらした。

なお、東京での会期終了後は、山口県立美術館(4月28日~6月21日予定)、愛知県美術館(7月9日~10月4日予定)への巡回も予定されている。オリジナルグッズも充実しているので、ぜひグッズ売り場もチェックしてほしい。

エウシェーン王子 静かな湖面 1901

灰咲光那(編集部)

灰咲光那(編集部)

はいさき・ありな 「Tokyo Art Beat」編集部。慶應義塾大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。研究分野はアートベース・リサーチ、パフォーマティブ社会学、映像社会学。